白い令嬢は愛を知らない
第1章3話
深い夢の海に揺られてふわふわしていた意識が、少しだけ浮上する。
柔らかくふわふわな感触に違和感を覚え、アルクリスタは目を覚ました。
眠さが抑え切れず、目をパチパチしながら起き上がる。
質のいいベッドに寝ていることはわかったが、眠気眼で視界が悪い。
前に3人程人影が見えたので、アルクリスタは疑問を口にした。
「……ここはどこですのぉ……?」
思いの外欠伸が出そうで我慢しつつ、当たり前の疑問を口にした。
しかし、声を出したことによって意識がはっきりしてきたのか、アルクリスタは慌ててしゃきっと起き上がった。
目の前の少女の光って見えるかのような金色の瞳にぼーっと見惚れるが、ノワールはそこで重大なことに気が付いた。
(彼女は人間だ……俺達が魔族だとわかると怯えられるのでは……?)
拒否される可能性に今更気付き、ノワールは愕然とする。
会話をしたことはないが、ノワールは既にアルクリスタにぞっこんであった。───自覚しているかはともかく。
そんな彼女の口から拒否の言葉を吐かれたら……生きていける気がしない。
どう取り繕おうかと内心慌てていると、アルクリスタはこちらに気付いたのか急に背筋を伸ばして起き上がった。
(……終わった)
今にも崩れ落ちそうになりながらノワールは彼女の動きを見守った。
「こんな格好で失礼しましたわ。私、アズレイト帝国のアダマース公爵家の娘、アルクリスタ・ヘマ・アダマースですわ」
美しくカーテシーをしてアルクリスタは前に立つ3人に目をやる。
美しい漆黒の髪の青年と、暗緑色の髪のアルクリスタより少し年上に見える少年、そして色っぽい妖艶な明るい透き通るような緑の髪の女性。
皆それぞれ角が生えており、青年に至っては翼まで見えた。
「あら……」
見るからに魔族の者たちである。
アルクリスタは驚くが、何も言わない3人に首を傾げた。
「どうかされたのですか?」
声をかけられた3人の内、一番位が高いであろう青年が口を開く。
「人間……お前、俺達が怖くないのか……?」
彼らにとっては当たり前であろう質問だ。
人間というのは魔族を異常なまでに恐れる。
「何故でしょう?高位の魔族は人形で、知能も人間以上に高いというのは本で読みましたわ。どうせ森にいても死んでいた命ですもの。むしろこんな綺麗なベッドで寝かせて頂いてたのですわ。感謝こそすれ、恐れることなどありませんわ」
アルクリスタが微かだがふわりと笑うと、青年は少し目を背けた。
(あら……私、嫌われてしまったのかしら?)
せっかく助けてもらったのに嫌われてしまったというのは残念だ。
また森に捨てられてしまうのか。
「……ノワールだ。ノワール・オブシディアン。ここは私の城だ。もう夜も遅い。明日話をしよう。では」
それだけ言って、青年……ノワールは部屋を出て行った。少年と女性も一礼してすぐにその背を追い掛けて行く。
「……行ってしまわれたわ……。あら、私ネグリジェで……はしたなかったのですわ……。このネグリジェもノワール様が?明日、お礼を言わなければ」
ネグリジェであったことに気付き少し恥ずかしさが沸いてくるが、今日はとにかくもう眠い。
明日話ができるのなら、今日はもう寝るに限る。
「やっぱり……切り株よりは断然……気持ちいい……」
そのままアルクリスタは、また深い夢の海に沈んでいった。
コンコンッ
軽やかなノックが聞こえ、アルクリスタは目を覚ました。
「おはよう!起きてるかしら?」
返事をする前に扉が開き、アルクリスタは慌ててベッドから這い出る。
「お、おはようございますわ。……えっと……?」
昨夜見た中で唯一の女性が、ルンルンと楽しそうに部屋へ入ってきた。
「私は魔族のペリドットよ。今日は貴女のお世話をするために来たの!ペリーでいいわ!」
ペリーはにこやかにそう言うと、軽やかな足取りでアルクリスタの前まで歩いてくる。
そして、ガシっとアルクリスタの肩を掴むと……とってもいい笑顔で言い放った。
「今から貴女は、着せ替え人形よ♡」
「え……………はい……」
笑顔なのに何故か少し怖く感じたアルクリスタはペリーの押しに負け、頷くしかなかった。
それから1時間程。
「あら〜!やっぱりこれが一番可愛いわ!」
「ありがとうございますわ」
ペリーが持ってきたドレスは20着以上。
薄暗かった空は既に日が昇りきっている。
「では魔王様の所へ参りましょう!」
ペリーに手を引かれ、アルクリスタは部屋を出る。
「私、手を引かれるような年齢ではないのだけれど……」
「あら?アルクリスタ様は7歳程ではないの?」
ペリーのキョトンとした顔に、アルクリスタはあからさまに肩を落とした。
「私……13歳ですわ……」
人間と魔族の成長速度は違うと言えど、確かにアルクリスタは13歳にしては小さい。
周りの令嬢は皆160cmが平均であったが、アルクリスタは141cmしかなかった。
ヒールがあるにしても周りに比べればどうしても小さくなってしまう。
魔族は更に身長が高い者が多いことも本で見て知ってはいたが……
「あら!ごめんなさいね?」
アルクリスタの落ち込む様子にペリーはあわあわとしている。
そうこうしている内に今までよりも大きな扉の前に着いた。
「ここが魔王様の執務室よ!」
ペリーがノックをし声をかけると、中から返事がある。
「はい」
扉を開けたのは昨日の少年だった。
「ああ……どうぞ」
少年はぶっきらぼうにそう言うと、2人を中へ迎え入れる。
「……来たか……」
奥の机には昨日の青年……魔王ノワールがいた。
「おはようございます。昨夜はお部屋とネグリジェをお貸し頂きありがとうございました」
丁寧にお礼を言うと、ノワールは首を振る。
「礼はいらない。あそこは昨夜からお前の部屋だ」
「え……」
驚いて目を見張るアルクリスタだが、ノワールは書類から目を離さず平然と言ってのけた。
「え……っと……」
「魔王様!それでは伝わりませんわ!」
ペリーはノワールが目を通していた書類の上に手を置き仕事の邪魔をする。
「きちんとお話されてください!」
ノワールは幾分迷った様子だったが、すぐに立ち上がり執務室にある中々に豪奢な椅子に座った。
部屋へ入れてくれた少年はノワールとその対面のテーブルの上に紅茶を置き、ノワールの後ろに控える。
「座ってくれ」
「失礼致します」
アルクリスタの後ろにはペリーが控えた。
そして、太陽が真ん中に差し掛かる頃、ようやく2人はまともに顔を突き合わせた。
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