四ツ葉のヒロイン候補達は幸福を届けてくれない
2話長女は時に姉の顔を覗かせる
「春香、入りますよ?」
夏希は春香の許可を得るまもなくドアを開ける。
薄暗い部屋の中、もごもごと布団を動かしながら春香は首を出した。
夏希が電気をつけると何もないと思っていた空間だったが辺りに漫画やゲーム機が散らばっており、足の踏み場もない。
「またこんなに散らかして、先日片付けたばかりじゃないですか」
「ごめんごめん。 適当にものどかして座ってよ」
言われるがまま俺はベッド周りのモノを片っ端から集め端に寄せる。 二人分のスペースが確保できたところで腰を下ろした。
「お粥持ってきた。 食えるか?」
「うん。 意外にも食欲はあるんだ……えっと夏希ちゃんはどうしたの?」
「私もお粥作ったんです! 妹として春香には早く治ってもらいたいですから食べてください!」
苦笑いを浮かべる春香、何かを察したらしい。
「あはは、また料理対決したんだ。 それも今回の犠牲者はうちかぁ……」
「そこまで酷い食べ物作ったことないですよ!?」
いや、十分酷い物作ってるぞ。 と言いたいがブチギレられるので黙っておく。
夏希はそのまま小皿にお粥を装い、何やら最後の盛り付けをしている。 
それに伴ってか春香は欠伸をしながら起き上がり、何か俺に目線で訴えてきた。
ま、予想するに。
『うち、病人なんだけど、死なないかな?』
と言ったところだろう。 だから俺は優しげに微笑んで首を振ってやった。
「ふっふっふ! 見てください! 私オリジナルのタマゴ粥ですよ!」
「思いっきりレシピ見てたけどな……」
「ち、違います! あれは作り方を調べただけです! アレンジも加えてありますよ、卵二つ使ったり、刻みネギ入れてシラスも乗せました!」
「卵二つも使ったのか!? 贅沢するなよ! 卵も高いんだぞ!?」
「あははは……アレンジも良いけどレシピ通りのお粥が食べたかったな……なんて」
「大丈夫ですよ! ほら、見た目も普通ですよ?」
確かに見た目は卵の主張が激しいものの僅かに出汁の匂いも感じさせ、どう見てもお粥そのものだ。
……しかし、あの大量の塩を見ると食欲はそそらないな。
そんなことも知らない春香は『いただきます』と言いながら恐る恐る口にする。
俺と夏希はその第一声を気にしながら春香が飲み込むのを待っていた。
「うん! ちょっと塩気が強いけど美味しいよ。 夏希ちゃん上手くなってるね」
……ホッ。
春香の笑顔に安心してか、隣の夏希もどこか安心したようにこっちを向いた。
「ほら、私も成長してるんですよ?」
はいはいとあしらいつつ、俺は元々取り分けておいたお皿を春香の前に置く。
「へー、二人ともお粥作ってくれたのにここまで見た目って変わるんだ」
少し関心した様子で春香が言う。 
俺のお粥は薄味で米の艶が反射してか真っ白な雪原のような見た目だ。 病人にも食べやすく少し水を多めにしてある。
しかし、なかなか食べ始めない春香に俺は首を傾げた。
「どうかしたか?」
「あー手に力が入らないなー。 ゆー君食べさせて?」
「はぁ……そんな戯言吐ける元気があるなら手を動かせ手を」
ちぇーっと少し残念そうに笑いながら春香はようやく口に入れた。 そして白い息を吐く。
「うん……なんだか落ち着く味だねぇ」
と言いながら、春香はもう一口と食べ続ける。
「お袋の味って感じがするよ、うちももう歳だねぇ」
「大丈夫だ。 それだけ食えれば明日には元気になるだろ」
「春香、判決をお願いできますか? 私のお粥と悠河のお粥どっちが美味しいか」
春香が食べ終わると同時に、夏希は結果をすぐに知りたいお気になるのか身を乗り出して判断を迫る。
近い近いと慌てて距離を取ると春香は腕を組みやや真剣そうに考える。
俺的には勝ち負けなんてどうでもいい。
「…………今回は、同点だね」
それ以上に春香のことが気になって仕方がない。
拍手をしながら少しでも盛り上げようとする春香に呆れた様子で夏希は肩を落とす。
「残念です……今日は勝てたと思ったんですけどね」
そう言って、夏希は空になったお皿を持ち立ち上がる。
「下に行きますよ悠河。 春香は早く寝て明日には元気になってもらわないと困りますから」
「まぁそれもそうだな……まだ晩御飯の準備もしてないしな」
俺もつられて立つと、夏希は先に部屋を出て行ってしまった。
「そいうところだけお姉ちゃんみたいなことするんだな」
去り際に俺が呟くと、春香ははてと首を傾げる。
「はっきり言ってやった方があいつのためになるんじゃねぇの」
「頑張って作ってくれたんだもん。 そんな子に悪いこと言えないよ」
「……そっか、姉ちゃんらしいといえばそうだな。 後でリンゴすってやるからゆっくり寝てな」
ホント、重度のシスコンだな。
「うん……ありがと」
小さく呟かれた声を聞き届け、俺は部屋の電気を消し静かにドアを閉めた。
階段を降りたところで夏希が壁にもたれかけ俺のことを待っていたかのように前にでる。
おぉ、カツアゲか。
「なんだよ……」
「今回も私の負けです」
突然前に現れたかと思えば夏希ははっきりとそう言った。
「何言ってんだ、姉ちゃんも言ってたけど今回は同点だろ? 晩飯の準備あるんだからちょっとは手伝ってくれ」
俺が夏希の横を通り過ぎようとすると。
「私だって、春香が嘘ついてることぐらいわかります。 姉妹ですもん、表情の違いぐらい見分けられます……」
「まぁ、演技下手くそだからな。 で、それをわざわざ言うためにそこに突っ立ってたのか?」
「……悪かったんですか」
声のない声で尋ねてくる夏希に俺は後ろを振り向く。
夏希は、そっぽを向きつつも口元を動かす。
「どこが……悪かったのか教えてください……」
なんだよ、そんなことか。
「塩。 入れすぎなんだよ。 ひとつまみってのは親指と人差し指と中指でつまんだ少量のことを言うんだ、お前のは一握り。 さぁわかったんなら晩飯作るぞ、もうすぐあいつらも帰ってくるだろ」
ホント複雑な性格してるなこいつも、まぁこれまで一度も聞いてこなかったことを踏まえると成長したと見るべきか。
なんならこのまま家事も上達して俺を休ませてくれ。
「分かりました! でも次は負けません、晩御飯作りで勝負です!」
懲りねー、落ち込んでるのかと思えばまた宣戦布告かよ。
はぁ……と溜息を吐きつつ俺が台所に入るとやる気を出した夏希も後をついてくる。
「今日のメニューはなんでしたっけ? オムレツですよね? なら私が愛秋《あき》の分作るんで———」
「よーし、適当にキャベツちぎってくれ」
「オムレツにキャベツは普通入れませんよ?」
「知っとるわ! どこかの誰かさんが肉大量に買ってきたから急遽メニュー変更で焼肉すんだよ! そんな毎日毎日何度も何度も勝負してられっか!」
バカにしてきた夏希に俺は今日の鬱憤を全てぶつける。
すると夏希は涙目になりながらもぷくっと頬を膨らませる。
「なんですか! もとあといえば悠河が安いお肉買ってきてって言ったんじゃないですか! 私は悪くないです! 無罪を主張します!」
「限度という言葉を知らんのか! 食べたいものばかり買ってきやがってこのステーキ肉はなんだ、切り刻んで焼いてやろうか!」
「それだけはダメです! そのステーキ肉は私のモノです! 後で焼いて食べようと思って買ったんだから置いといてください!」
「ならつべこべ言わず手伝え。 後これ、姉ちゃんに持って行ってこい」
俺はすりリンゴを夏希に手渡す。
俺が持って行っても良いのだが、夏希が持って行った方が何かと都合が良い。
「はぁ……わかりました。 今日だけは負けを認めます。 でも明日は負けないですから」
今まで認めてなかったのかよ……。
  とりあえずこの負けず嫌いの次女の相手は大変だ。
夏希は春香の許可を得るまもなくドアを開ける。
薄暗い部屋の中、もごもごと布団を動かしながら春香は首を出した。
夏希が電気をつけると何もないと思っていた空間だったが辺りに漫画やゲーム機が散らばっており、足の踏み場もない。
「またこんなに散らかして、先日片付けたばかりじゃないですか」
「ごめんごめん。 適当にものどかして座ってよ」
言われるがまま俺はベッド周りのモノを片っ端から集め端に寄せる。 二人分のスペースが確保できたところで腰を下ろした。
「お粥持ってきた。 食えるか?」
「うん。 意外にも食欲はあるんだ……えっと夏希ちゃんはどうしたの?」
「私もお粥作ったんです! 妹として春香には早く治ってもらいたいですから食べてください!」
苦笑いを浮かべる春香、何かを察したらしい。
「あはは、また料理対決したんだ。 それも今回の犠牲者はうちかぁ……」
「そこまで酷い食べ物作ったことないですよ!?」
いや、十分酷い物作ってるぞ。 と言いたいがブチギレられるので黙っておく。
夏希はそのまま小皿にお粥を装い、何やら最後の盛り付けをしている。 
それに伴ってか春香は欠伸をしながら起き上がり、何か俺に目線で訴えてきた。
ま、予想するに。
『うち、病人なんだけど、死なないかな?』
と言ったところだろう。 だから俺は優しげに微笑んで首を振ってやった。
「ふっふっふ! 見てください! 私オリジナルのタマゴ粥ですよ!」
「思いっきりレシピ見てたけどな……」
「ち、違います! あれは作り方を調べただけです! アレンジも加えてありますよ、卵二つ使ったり、刻みネギ入れてシラスも乗せました!」
「卵二つも使ったのか!? 贅沢するなよ! 卵も高いんだぞ!?」
「あははは……アレンジも良いけどレシピ通りのお粥が食べたかったな……なんて」
「大丈夫ですよ! ほら、見た目も普通ですよ?」
確かに見た目は卵の主張が激しいものの僅かに出汁の匂いも感じさせ、どう見てもお粥そのものだ。
……しかし、あの大量の塩を見ると食欲はそそらないな。
そんなことも知らない春香は『いただきます』と言いながら恐る恐る口にする。
俺と夏希はその第一声を気にしながら春香が飲み込むのを待っていた。
「うん! ちょっと塩気が強いけど美味しいよ。 夏希ちゃん上手くなってるね」
……ホッ。
春香の笑顔に安心してか、隣の夏希もどこか安心したようにこっちを向いた。
「ほら、私も成長してるんですよ?」
はいはいとあしらいつつ、俺は元々取り分けておいたお皿を春香の前に置く。
「へー、二人ともお粥作ってくれたのにここまで見た目って変わるんだ」
少し関心した様子で春香が言う。 
俺のお粥は薄味で米の艶が反射してか真っ白な雪原のような見た目だ。 病人にも食べやすく少し水を多めにしてある。
しかし、なかなか食べ始めない春香に俺は首を傾げた。
「どうかしたか?」
「あー手に力が入らないなー。 ゆー君食べさせて?」
「はぁ……そんな戯言吐ける元気があるなら手を動かせ手を」
ちぇーっと少し残念そうに笑いながら春香はようやく口に入れた。 そして白い息を吐く。
「うん……なんだか落ち着く味だねぇ」
と言いながら、春香はもう一口と食べ続ける。
「お袋の味って感じがするよ、うちももう歳だねぇ」
「大丈夫だ。 それだけ食えれば明日には元気になるだろ」
「春香、判決をお願いできますか? 私のお粥と悠河のお粥どっちが美味しいか」
春香が食べ終わると同時に、夏希は結果をすぐに知りたいお気になるのか身を乗り出して判断を迫る。
近い近いと慌てて距離を取ると春香は腕を組みやや真剣そうに考える。
俺的には勝ち負けなんてどうでもいい。
「…………今回は、同点だね」
それ以上に春香のことが気になって仕方がない。
拍手をしながら少しでも盛り上げようとする春香に呆れた様子で夏希は肩を落とす。
「残念です……今日は勝てたと思ったんですけどね」
そう言って、夏希は空になったお皿を持ち立ち上がる。
「下に行きますよ悠河。 春香は早く寝て明日には元気になってもらわないと困りますから」
「まぁそれもそうだな……まだ晩御飯の準備もしてないしな」
俺もつられて立つと、夏希は先に部屋を出て行ってしまった。
「そいうところだけお姉ちゃんみたいなことするんだな」
去り際に俺が呟くと、春香ははてと首を傾げる。
「はっきり言ってやった方があいつのためになるんじゃねぇの」
「頑張って作ってくれたんだもん。 そんな子に悪いこと言えないよ」
「……そっか、姉ちゃんらしいといえばそうだな。 後でリンゴすってやるからゆっくり寝てな」
ホント、重度のシスコンだな。
「うん……ありがと」
小さく呟かれた声を聞き届け、俺は部屋の電気を消し静かにドアを閉めた。
階段を降りたところで夏希が壁にもたれかけ俺のことを待っていたかのように前にでる。
おぉ、カツアゲか。
「なんだよ……」
「今回も私の負けです」
突然前に現れたかと思えば夏希ははっきりとそう言った。
「何言ってんだ、姉ちゃんも言ってたけど今回は同点だろ? 晩飯の準備あるんだからちょっとは手伝ってくれ」
俺が夏希の横を通り過ぎようとすると。
「私だって、春香が嘘ついてることぐらいわかります。 姉妹ですもん、表情の違いぐらい見分けられます……」
「まぁ、演技下手くそだからな。 で、それをわざわざ言うためにそこに突っ立ってたのか?」
「……悪かったんですか」
声のない声で尋ねてくる夏希に俺は後ろを振り向く。
夏希は、そっぽを向きつつも口元を動かす。
「どこが……悪かったのか教えてください……」
なんだよ、そんなことか。
「塩。 入れすぎなんだよ。 ひとつまみってのは親指と人差し指と中指でつまんだ少量のことを言うんだ、お前のは一握り。 さぁわかったんなら晩飯作るぞ、もうすぐあいつらも帰ってくるだろ」
ホント複雑な性格してるなこいつも、まぁこれまで一度も聞いてこなかったことを踏まえると成長したと見るべきか。
なんならこのまま家事も上達して俺を休ませてくれ。
「分かりました! でも次は負けません、晩御飯作りで勝負です!」
懲りねー、落ち込んでるのかと思えばまた宣戦布告かよ。
はぁ……と溜息を吐きつつ俺が台所に入るとやる気を出した夏希も後をついてくる。
「今日のメニューはなんでしたっけ? オムレツですよね? なら私が愛秋《あき》の分作るんで———」
「よーし、適当にキャベツちぎってくれ」
「オムレツにキャベツは普通入れませんよ?」
「知っとるわ! どこかの誰かさんが肉大量に買ってきたから急遽メニュー変更で焼肉すんだよ! そんな毎日毎日何度も何度も勝負してられっか!」
バカにしてきた夏希に俺は今日の鬱憤を全てぶつける。
すると夏希は涙目になりながらもぷくっと頬を膨らませる。
「なんですか! もとあといえば悠河が安いお肉買ってきてって言ったんじゃないですか! 私は悪くないです! 無罪を主張します!」
「限度という言葉を知らんのか! 食べたいものばかり買ってきやがってこのステーキ肉はなんだ、切り刻んで焼いてやろうか!」
「それだけはダメです! そのステーキ肉は私のモノです! 後で焼いて食べようと思って買ったんだから置いといてください!」
「ならつべこべ言わず手伝え。 後これ、姉ちゃんに持って行ってこい」
俺はすりリンゴを夏希に手渡す。
俺が持って行っても良いのだが、夏希が持って行った方が何かと都合が良い。
「はぁ……わかりました。 今日だけは負けを認めます。 でも明日は負けないですから」
今まで認めてなかったのかよ……。
  とりあえずこの負けず嫌いの次女の相手は大変だ。
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