俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる

網野ホウ

暗いダンジョンの中の危険な場所で絶体絶命 その先にあったものは

 予想通り、尻尾を振り回しての打撃が来た。
 流石にダメージはでかかった。
 フォールスをかばってワニに背中を向けたんだが、その背中に強烈な一撃。
 呼吸が一瞬止まって、跳ね飛ばされたあとも激痛が続く。
 補助魔法の効果も役に立たないってことは、やっぱ大人の冒険者じゃないとクリアできない階層なんだな。
 いや、それどころじゃないんだけど。

 でも何と言うか。
 一瞬の判断力と行動力も、俺の方が優れてるのかも。
 さっきの二人を放り投げた時も、地面の異変を感じて二人に向かって即座に駆け出してたからな。

 こんな時にそんなことを分かっても……。

「……この先、今分かった俺の特性を活かす機会があるかどうか」
「え、縁起の悪い事言わないでよ! 今ここからどう逃げるのか考えるのが先でしょ!」

 相変わらず俺への毒舌がひどい。
 ……ということは、フォールスには体へのダメージはないと見ていい。
 俺もたまには役に立つじゃないか。

「また来たわ!」

 尻尾の攻撃か。
 今度はフォールスが俺をかばおうとしたけど、そうはいかせない。
 こいつは俺のクラスでは一番の実力の持ち主だし、武術や体術だってある程度こなせる。
 こんな時のいざという時のための切り札……になるかどうか分からんが、こんなことでこいつを消耗させるわけにはいかない。
 温存するなら俺よりもこいつの力の方だ。
 いくら俺が前衛向きじゃなくても、いくら体力がついてなくても、そこんとこを弁えてりゃ俺のやるべきこと、やらなきゃならないことくらいはなぁ!

「ちょっ、エッジ! きゃあっ!」
「ぐあっ!」

 かばったフォールスごと吹っ飛ばされた。
 体のあちこちが痛い。
 尻尾の攻撃で、あちこちの骨、ひびが入ったか折れたか。

 助けを求めたくても、出るのは呻き声だけ。
 フォールスは完全にビビってる。
 母さんを楽にしてあげたかったが、先に俺の方が楽になりそうだ。
 ……父さんに助けを求めたくても天からの助けなんてそうそうないし、生きてたとしても冒険者じゃない人にそれを願うのはどうかと思う。

「こ……ここ、どこ?」
「……ぅ?」

 自然にできたダンジョンだって聞いた。
 でも今いるのは石の中。

 石の中にいる!

 じゃなくて。

 何と言うか……小部屋?
 平らな壁、天井、床。
 自然にできた物じゃない。
 誰かの手によって作られた部屋。

 その部屋は扉が開けっぱなしになってる。
 俺たち二人が扉に向かって吹っ飛ばされたんだろう。
 で、ワニは忌々しそうに何度も体当たりしてくる。
 フォールスはその衝撃が来るたびに俺の背中に隠れようとしてる。
 守りたいのはやまやまだけど、ワニの直撃受けたら流石に俺、体が壊れそうなんだけど?

 って……なんか余裕があるな。
 死ぬ覚悟ができたせいなんだろうか。
 かといってワニに向かって立ち向かっていったところで、撃退できるはずもない。
 なんせこのグループで情けないほどの無力を誇るエッジ様だからなぁ。
 俺に出来ることと言ったらおにぎりを作ることくらいだ。
 しかも誰からもアテにされてないという。

 けど……。
 この部屋、随分丈夫なんだな。
 振動は来るし音もでかいけど……ある意味びくともしない。

「あれ?」
「ひっ……。ど、どうしたの……?」

 この小部屋には、完全に光はない。
 けど、それでも目が慣れた。
 お陰でこの場から離れることができそうな手段を見つけた。
 この部屋にはもう一つ扉があったんだ。

「ここから何事もなく離れることができそうだ。向こう側にもう一つ扉がある。歩けるよな?」
「う、うん」

 よかった。
 俺、普通に歩けるかどうか分かんないからさ。
 どうやら骨折はしてないみたい。
 全身打撲かな?
 よく分かんないけど、フォールスの手を借りなくても歩け……。

「か……肩貸すよ」
「うおっ」

 バランスを崩しかけた。
 いきなり引っ張られた感じがしたからさ。

「ぐっ。……無茶しないでよ。魔力ゼロのくせに」
「……だからこんなことしかできないんだよ」

 暗い中を扉に向かって進む。
 その先には何があるかは分からない。
 けど、ワニよりも恐ろしいモノがいるとしたら、流石の俺でもその気配で分かる。
 扉を開けると……。

「な……何? ここ……」

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