俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる

網野ホウ

俺、エッジ=エズの家のこと

 俺はずーっと気が重い。
 気が重いまま、冒険者の養成学校ってとこに通ってる。
 いろいろと悩みを抱えてんだよ。

 俺の名前は、エッジ・エズ。
 母さんは鬼人族で俺もそう見なされてる。
 父さんは人族って言ってたけど、何かうっすらと鬼人族の血が混ざってたらしい。
 詳しいことはよく分かんないけどな。

 聞きたいと思ったけど、もう聞くことができないんだ。
 俺が……今、十五才だから、十才の時か。
 俺は今、鬼人族の母さんと二人暮らしで生活してる。

 あぁ、気が重い理由は、父さんが死んじゃったからじゃないんだ。
 そりゃ悲しいさ。でも父さんはいつも周りの人から喜ばれてた。
 おにぎり……父さんは握り飯って呼んでたけど、それを作るのが上手らしいんだって。
 子供にも教えてあげたら? って勧められたらしくて、俺もおにぎり作りを教わるようになったんだけど……。

 あぁ、話ずれちゃったな。
 気が重いってのは、俺の体質が原因なんだ。
 見た目鬼人族。
 まぁ、額や頭部から角が出てるのが外見で一番目立つ特徴で、俺にも額に短い角がある。
 だからそれは問題ないんだが、鬼人族も他のいくつかの種族と同じように魔力を持ってる。

 けど、そこんとこは父さんの血を引いたんだな。
 魔力が全くないんだ。
 当然魔法も使えない。

 魔力がないというより、なぜか持つことができないって感じだな。
 大祖母ちゃん……って呼んでるんだけど、父さんは高祖母って言ってたな。
 その大祖母ちゃんからは何度も何度も謝られた。しかも泣きながら。
 泣かれてもなあ……って感じだったけど、物心ついた時はそれしか感じられなかった。

 けど大祖母ちゃんが死んだあと、他の家族から、魔力のない者を伴侶に迎えて、魔力のない一族を生んだお前らはここから出ていけ、みたいなこと言われたんだよ。
 追放って言うか、絶縁って言うか。
 父さんは母さんと俺にすまなそうな顔してた。
 俺が五才の時だった。

 父さんが元気な頃は、それでも楽しかった。
 一緒におにぎり作ってた。
 それが俺の遊びだった。
 でも父さんは、ある時こんなことを言ってた。

「ま、こんなもん誰でも作れる。できたって自慢にもならねえよ」

 その時だけ、父さんはつまらなそうな顔してた。
 何となく、そう思った。

 母さんはいつもこう言ってた。
 食べた人が一番喜んでくれたのは、父さんが作ったおにぎりだったって。
 何のことかよく分からなかった。
 よく分からないまま、やっぱ魔力とかあったんじゃないの? って言ったんだけど、父さんは心当たりがないしあるわけがないって言ってた。
 母さんも、そんな気配はないから不思議だって言ってた。
 それで、父さんの真似をしておにぎりを同じくらい頑張って作ってたんだけど、そうはいかなくなっちゃった。

 父さんは原因不明の体調不良を起こした。
 次第に体力も減っていった。
 父さんにとって、やっぱりここは異世界だったんだなって。
 異世界の空気が合わなかったみたいなんだって。

 そして父さんは死んでしまった。
 母さんと二人だけで父さんを見送った。

「いつか、お前は俺に会いに来るときが来る。何言われても気にすんな」

 何のことか全く分からなかった。
 その意味を詳しく聞こうとしたけど、変な笑い顔をするだけだった。
 俺への遺言はそれだけだった。

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