俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる

網野ホウ

新たに生まれた生きる道

 頬を両手で挟まれた。
 アッチョンブリケとか何とかな、子供の悪ふざけじゃあるまいし。

「……これでどうかの?」
「これで……って……。下らねぇ冗談に付き合ってる場合じゃ……」
「そっちの部屋の壁を見るがいい」

 そっち……って、屋根裏部屋のことだよな。
 壁の何が……あ……。

「指輪の部屋の扉の横に……緑色の、妙な飾りがついた扉が……」

 部屋中にざわめきが響く。

「コ……コウジ……まさか、お前……」
「おいおい、嘘だろ?」
「待て。みんな落ち着けっ!」
「バカ野郎! 落ち着いていられるか!」

 周りは大騒ぎ。
 俺だけ、いや、俺とその鬼女だけは冷静だ。

 みんな……この扉から出たり入ったりしてたのか……?
 だが、扉は一つだけ。

 その扉に近寄ってみる。
 扉に触り、表面を撫でる。

「うおっ! なんだこりゃ!」
「コウジ! どうした!」

 スマホの画面のように、扉がスワイプされた。
 オレンジ色の、飾りもまた別の物がついた扉が現れた。

「コウジ……。お前、俺らが通る扉が見えるようになったのか?」
「あ、あぁ、そう、らしい……いっ!」

 斧戦士が扉に触れた。
 色も模様も一瞬で変わった。
 どうやら異世界人が触ると、その人物がくぐってきた扉に変わるらしい。
 ということは。

「お……俺は……どの世界にも移動できるようになったって訳……か?」

 鬼女の方を見る。
 首の動きがぎこちないのが自分でも分かった。

「……そう。そして、できれば……」

 俺のそばに寄り、その扉に触れた。
 扉と飾りがまた変わる。
 しかし他の扉と違い、その色で発光している。
 一番目立つ扉。
 俺が血を引いている者がいる世界への扉、ということらしい。

「生活の場を、こちらに移してみてはどうかの? ここをコウジの仕事場として、の」

 ※※※※※ ※※※※※

 今まで何度か、いや、何度もからかわれた。

「コウジ。お前、友達とかいないだろ」

 ってな。
 否定はしない。

 だが、そんな生活が、まさかその決断をしやすくするとは思わなかった。
 今までたくさんの米を譲ってくれた親戚一軒一軒に訪問した。
 雑貨屋は店仕舞いすること。
 けど仕事は変えて、そこをそのまま自分の職場にすること。
 そして、自分は別の所に引っ越す。
 でも、その仕事はずっと続けられるから、今まで通り、余ったり売り物にならない作物は引き取らせてもらいたい旨を伝えた。

 もらえる農作物は減ったが、それでも捨てるのは忍びない。
 その引き取り手はまだここに残る。
 そのことには安心してくれた。

 異世界の連中も俺の決断を喜んでくれた。

「俺のところに遊びに来いよ。歓迎するぜ」
「いやいや、俺んとこも面白い場所いっぱいあるぜ?」
「私の所にも来てほしいなぁ」

 無関心ではいられなくなっちまったのが難点だ。
 だが俺からはいつもと同じ対応をするだけだ。

「お前ら、うるせぇ」

 行動範囲は広くなった。
 だが、義理は通さなきゃならんだろう。

「……最初に行く世界は、もう決まってんだよ」

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