俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる

網野ホウ

シェイラの傾聴:女王の懐古

「いつもは必ず誰かが守ってくれた。でもそんな人達から離れてたから、助けに来てくれるはずの人達が来なかったのよ。当たり前よね。けどそれが分からないほど子供だった」
「……お母様も……怖くて、泣いた?」
「子供だったからね。けど、あるわけがないのに扉が目の前にあって、そこに行けば助かると思って飛び込んじゃった」

 そしたらそこが、屋根裏部屋の手前の空間だったってことらしい。
 正面にも扉があって、そこをくぐったら……。

「それでこの部屋に入ることができたの。それから何度か来たことはあったけど、久々にここにきたら、異世界の人達が多くなるわ、部屋が増えるわでびっくりしちゃった」

 人が多くなったって……どういうことだろう?

「五、六人くらいしかいなかったわね。それがざっと三十人以上でしょ?」
「驚いた時の前に、この部屋に来た時ってどれくらい前の……」

 あ。
 これも聞いたらまずいやつだ。
 何で同じ笑顔なのに、急に怖く感じるのかな……。

「そして初めてイゾウと会ったのよ」

 コウジは見たこともない、自分の曾祖父の名前らしい。

 お嬢ちゃんも迷子かい?
 と話しかけられ、おにぎりを差し出された。
 けどほかに、ツケモノ? とか呼ばれた野菜の何かとお茶も貰ったらしい。
 今はおにぎりと水だけ。
 随分質素になったものね。
 コウジってば、怠けたいんじゃないの?

「人数が少なかった分、食べ物を作る時間をとることができたってことね。流石にこの人数……しかも出入りもたくさんいるんでしょう?」
「そ、そういえばそうだった、な」

 言われてみれば。
 そもそもおにぎりは一度に百五十個作ってた。
 しかも一日二回。

「いつもいて手伝いもしてるんでしょう? なんで肝心なことを忘れるの」

 だってコウジなんだもん。

「コウジもコウジなりに一生懸命やってるじゃない。動機や理由は曖昧だったとしても、ね」

 そうなのかなぁ。
 大した仕事じゃないけど、袋を運ぶのはすっかり私の仕事になった。
 絶対力仕事したくないからじゃないの?

「シェイラ、あなたはどんなことを手伝ってるの?」
「えーと、この袋をキッチンまで運ぶとか……」
「ほかには?」
「おにぎりを順番待ちの途中でも配ったり……」
「あとは? おにぎり作ったりしないの?」

 う……。
 ご飯が手から離れないんだもの……。

「し……してない……」

 わ、私だって一生懸命やってるわよっ!
 ……でもあれは全部コウジが作ってるのよね。
 ……なんでコウジにできて私にできないの?!

「お母様はイゾウの手伝いを何度もしようとしたけど……」

 私はお母様からの勧めでここに来たわけだから、コウジの手伝いも自分からではなくお母様から指示されたようなものよね。
 でもお母様は自分から手伝おうとしてたのね……。

「でも、お腹いっぱいになるまで食べていいからねって、子供扱いされて終わり。確かにおいしかったけどね。スモークめいた香ばしさがこもったツケモノは美味しかったかな……」

 お母様。
 私はそのツケモノすら食べさせてもらえないんですけど?
 何で私が羨ましがるようなことを言うんですかお母様。

「ここじゃ確かに普段の生活と比べれば不便なことだらけ。でもイゾウはいつも、絶対な安心感がいつもあったわね」

 ……絶対な安心感……って、なんか変な言い方するわね……。

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