俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる

網野ホウ

女王母娘への疑問点

 シェイラの母親は、どこぞの世界のどこぞの国の女王。
 俺に王女である一人娘を預け……、いや、押しつけた。
 その王女のシェイラは、うちの雑貨屋の二階のプレハブ部屋で何ヶ月か過ごした。

 どうも腑に落ちないところがある。

 どこかの異世界で起きた握り飯の転売行為。
 この経緯にはおかしな点はない。
 今まで何故そんなことが起こらず、シェイラが来てから起きたのか。
 それは、シェイラが握り飯にかけた魔法に原因がある。
 回復効果が、俺が作っただけの握り飯とは比べ物にならないくらい高い効果を発揮。
 それがあちこちの異世界で噂になったから。

 問題はそこじゃない。
 だが腑に落ちない思いが確信に変わったきっかけにはなった。

 シェイラに頼んで呼んでもらった母親との三度目の対面は……。

「ここじゃ話しづらいこともある。指輪の部屋でならいくらかは防音になるだろ」
「我が娘との久々の対面というのに、せっかちと言おうか何といおうか……」
「うるせぇよ。だったら暇見て様子見に来たらいいだろうが」

 悪どさがなければこんな言い方はしないだろうが、女狐とか言うんだっけ?
 どのみち、隠し事はあるんだよな。

「……で、何用かの? 我が子との感動の再会の時間よりも先に極秘会談とは、穏やかならぬな」
「何、雑談だよ。ただし、俺の気持ちを落ち着かせるためだけの、な」

 米袋を椅子代わりにしてしまった。
 罰が当たるだろうか。
 そんなことよりも、だ。

「シェイラを俺に預けた理由は、社会勉強、だったっけか?」
「左様。娘はしっかりと働いておるだろうか?」
「まぁ、真面目にはやっている。だが残念ながら、作った握り飯は、見るも無残、としか言いようがない」

 肩を落としてる場合じゃないですぜ? お母サマ?

「使える魔法を制限したっつってたな。その結果の噂は……聞いてないか?」
「女神、と呼ばれる者がおる、と聞いた。娘のことかと思うておったが……」
「娘のことだよ。制限をかけられたうえで魔法を使った。まあいろいろあってその影響が握り飯に出た。その渾名はその結果だな」
「なんと?! それは喜ばしいことよ。間違いなくコウジのお陰かの。礼を申すぞ」

 礼、ねぇ……。

「だがお母さんの目的は……」
「うむ、社会勉強、よ。いくら褒められようが、そこのところ、経験がまだ浅くての」
「俺にそれを伝えた時、娘はお母さんの陰にいたな。つまりここに来る目的を娘も知っていた」
「もちろんじゃ」
「だが……娘は別のことを考えてるぞ?」

 何かおかしなことでもあるのか? と言いたげな顔を俺に向ける。
 うん。
 それだけだと別に大したことはない。

「女神、とまで言われるほどの効果をもたらす握り飯にした。これは流石の俺も頭が下がる」
「そうであろう。流石我が娘よ」

 ところがだ、と切り出した言葉に、女王サマはキョトンとする。

「基本的には無償で配給してる握り飯を、何人かの人物がグループを組んでその効果の高い握り飯を蓄えて販売してるってことがあってな」
「ふむ」
「あいつは、自分の作った握り飯の効果を体感する者達の様子を見たい、みたいなことを言っててな。そこから、苦しんでる多くの人達を救いたい、みたいなことを言い出してな」
「シェイラも成長している、ということではないか。喜ばしいこと……」
「母親と一致した、社会勉強はどうなった? って疑問が浮かんだんだよ」

 母親に、自分の能力を制限させられた。
 ものの見方によっては虐待と思われかねない。
 だがその母親の行為に同意した。
 ただ同意したんじゃない。

 母親の目の届かない所で、娘は自分の母親を称賛していた。
 親子関係なら当然と思うだろう?
 そんな互いに信頼し合える親子関係でありながら、俺に娘を預けた目的から、なぜ娘が逸れていく?
 何より、娘の口から自主的に、社会勉強という言葉は出てこなかった。

 腑に落ちない点はまずそこだ。
 そしてまだ問題点は存在する。

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