俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる
俺らの噂に惑わされる者が、また一人
まだ、というか、ずっと、というか。
いまだに救世主と呼ばれ続けている。
この部屋に来る者全員からではないけども。
そんな余計な肩書はいらない。
まぁ一度「魔王」なんて呼ばれたことがあったな。
だが今回は奇妙なことを言われた。
「これが……あの噂の握り飯か……。作っているのはコウジさんって人だと聞いたが……」
握り飯タイムの時に声をかけてきた双剣の冒険者。
「ん? あぁ」
いつものように短い返事で、次の順番の奴に握り飯を渡そうとしたのだが。
「金は、ないのだが……」
「いらねぇよ」
「え……?」
「持ってくんなら持ってけよ。まさか置いてくってんじゃねぇだろうな?」
「……あぁ。金はないからな」
持っていくのも受け取らないのも自由だが、順番待ちの列に並ぶ意味が分からない。
「食わなくても体力回復できるならそれもいいだろうけどよ。でも一回掴んだ握り飯を戻して、それをその後に並んでる奴が気持ちよく受け取れると思うか?」
「じゃあどうしろと!」
「持ってったらいいだろう?!」
なんか、また面倒くさい奴が来たなぁ。
そもそもこいつらの金は日本じゃ使えねぇっての!
「……金は、いらないのか?」
「金は必要に決まってるだろう」
「……コウジ、多分意味食い違ってると思うよ? それ」
まさかシェイラから突っ込まれるとはな。
シェイラは、コルトのように列の半ばあたりで握り飯を配っていたが、パフォーマンスが効きすぎて列が乱れることが度々あった。
配給の妨げになる、ということで、以来俺の隣で仕事の手伝いをしている。
「……基本的に、無料で配布してる。面倒くさい奴に絡まれてからは、持ってる素材なんぞを代金代わりにしてる。もちろん何も出さずに持っていくのも自由だ」
「……噂とは、大分違うな」
……その噂、どんなんか聞いてみたいが、その前に、だ。
「お前の後ろに並んでる奴が、いつになったら握り飯受け取れるんだとやきもきしてるようだが、お前はそれに気付かんのか?」
「あ、あぁ、すまん」
結局その双剣の男はその握り飯と水を受け取り、列から離れていった。
※※※※※ ※※※※※
「コルトちゃんの歌声は良かったけど、シェイラちゃんのその魔力も有り難いな」
朝の握り飯タイムが終わり、この部屋に出入りする者の動きも落ち着いたころにそんなことを話しかけられた。
シェイラが初めてここに来た時に着ていた服は部屋の隅に追いやられ、すっかり作業着姿が板についた。
どこぞの国の王女だなんてバラしたら、逆に俺の頭の中を疑われそうなくらいだ。
シェイラの性格も随分丸くなった。
体は子供でも、志は大人と変わらんってことか。
だから子供扱いすると腹を立てるし、こいつにはできて当たり前のことを評価すると冷たい視線を向けられる。
だが、まだ妙に子供っぽいところがある。
「今朝もまた来てたよ。今回は二人だったね」
「お前の推測だと四人組とやらの連中か?」
「うん。そのうちの二人」
よく観察してるな。
ま、いいけどさ。
それにしても……。
「……握り飯を作る人は守銭奴、と聞いたのだが……」
さっきの双剣の男が再び近寄り、そんなことを切り出した。
思わず俺はシェイラを見る。
シェイラも首を横に振り、肩を竦めた。
うん。
心当たりはない。
って言うか、誰だよ、こいつ。
別に知りたいわけじゃないけどさ。
「そっちがどんな話を聞こうと、俺には知ったこっちゃないな。だがその話を俺に押し付けるな。面倒くさいから」
「言われてみれば、確かに金を払って握り飯を受け取る者は一人もいないな……。ここは……ミョール洞窟の中、でいいんだよな?」
なんだそれは。
知るかよ。
「俺の店の二階だよ。勝手にそっちの世界の洞窟の一部にすんな」
「店……店だと?! 洞窟の中で店をしてるのか?」
あー……。相手にするの面倒くせぇよ、ほんと。
「ここにいる全員、俺にとっちゃ異世界の存在だし、こいつら全員俺の世界に飛び出すと、一人残らず標本にされちまうぞ?」
「な、なんだそれはっ! まるで……まるで地獄じゃないか!」
こいつもこいつで頭が固いな、まったく。
「だがお前らは俺の世界に行けないし、俺もここにいる連中の、それぞれの世界に行けない。安心しろ」
「それぞれの世界……って、みんな別の所から来てるのか?!」
「中には同じ世界から来た奴もいるらしいが……。俺よりもこいつらの酒場で聞く噂の方が詳しいんじゃねぇのか?」
「噂なら聞いてるさ。守銭奴の主と、慈悲深い女神がいるってな」
「「女神?!」」
女神。
女神って……シェイラのこと……だよな?
その本人は、俺の方を見てる。
俺を見たって状況変わんねぇよ。
「シェイラ……。お前、女神なんだと」
痛っ!
足、蹴飛ばされた。
「……お前の母親は、そんな風にはっきり言いきられたことがあったか?」
痛っ!
逆の足蹴られた。
……うん、いじるのやめとくか。
大人扱いしようとしても、どうしてもつい……な、うん。
それにしても、守銭奴ってどっから出てきたんだろうな?
いまだに救世主と呼ばれ続けている。
この部屋に来る者全員からではないけども。
そんな余計な肩書はいらない。
まぁ一度「魔王」なんて呼ばれたことがあったな。
だが今回は奇妙なことを言われた。
「これが……あの噂の握り飯か……。作っているのはコウジさんって人だと聞いたが……」
握り飯タイムの時に声をかけてきた双剣の冒険者。
「ん? あぁ」
いつものように短い返事で、次の順番の奴に握り飯を渡そうとしたのだが。
「金は、ないのだが……」
「いらねぇよ」
「え……?」
「持ってくんなら持ってけよ。まさか置いてくってんじゃねぇだろうな?」
「……あぁ。金はないからな」
持っていくのも受け取らないのも自由だが、順番待ちの列に並ぶ意味が分からない。
「食わなくても体力回復できるならそれもいいだろうけどよ。でも一回掴んだ握り飯を戻して、それをその後に並んでる奴が気持ちよく受け取れると思うか?」
「じゃあどうしろと!」
「持ってったらいいだろう?!」
なんか、また面倒くさい奴が来たなぁ。
そもそもこいつらの金は日本じゃ使えねぇっての!
「……金は、いらないのか?」
「金は必要に決まってるだろう」
「……コウジ、多分意味食い違ってると思うよ? それ」
まさかシェイラから突っ込まれるとはな。
シェイラは、コルトのように列の半ばあたりで握り飯を配っていたが、パフォーマンスが効きすぎて列が乱れることが度々あった。
配給の妨げになる、ということで、以来俺の隣で仕事の手伝いをしている。
「……基本的に、無料で配布してる。面倒くさい奴に絡まれてからは、持ってる素材なんぞを代金代わりにしてる。もちろん何も出さずに持っていくのも自由だ」
「……噂とは、大分違うな」
……その噂、どんなんか聞いてみたいが、その前に、だ。
「お前の後ろに並んでる奴が、いつになったら握り飯受け取れるんだとやきもきしてるようだが、お前はそれに気付かんのか?」
「あ、あぁ、すまん」
結局その双剣の男はその握り飯と水を受け取り、列から離れていった。
※※※※※ ※※※※※
「コルトちゃんの歌声は良かったけど、シェイラちゃんのその魔力も有り難いな」
朝の握り飯タイムが終わり、この部屋に出入りする者の動きも落ち着いたころにそんなことを話しかけられた。
シェイラが初めてここに来た時に着ていた服は部屋の隅に追いやられ、すっかり作業着姿が板についた。
どこぞの国の王女だなんてバラしたら、逆に俺の頭の中を疑われそうなくらいだ。
シェイラの性格も随分丸くなった。
体は子供でも、志は大人と変わらんってことか。
だから子供扱いすると腹を立てるし、こいつにはできて当たり前のことを評価すると冷たい視線を向けられる。
だが、まだ妙に子供っぽいところがある。
「今朝もまた来てたよ。今回は二人だったね」
「お前の推測だと四人組とやらの連中か?」
「うん。そのうちの二人」
よく観察してるな。
ま、いいけどさ。
それにしても……。
「……握り飯を作る人は守銭奴、と聞いたのだが……」
さっきの双剣の男が再び近寄り、そんなことを切り出した。
思わず俺はシェイラを見る。
シェイラも首を横に振り、肩を竦めた。
うん。
心当たりはない。
って言うか、誰だよ、こいつ。
別に知りたいわけじゃないけどさ。
「そっちがどんな話を聞こうと、俺には知ったこっちゃないな。だがその話を俺に押し付けるな。面倒くさいから」
「言われてみれば、確かに金を払って握り飯を受け取る者は一人もいないな……。ここは……ミョール洞窟の中、でいいんだよな?」
なんだそれは。
知るかよ。
「俺の店の二階だよ。勝手にそっちの世界の洞窟の一部にすんな」
「店……店だと?! 洞窟の中で店をしてるのか?」
あー……。相手にするの面倒くせぇよ、ほんと。
「ここにいる全員、俺にとっちゃ異世界の存在だし、こいつら全員俺の世界に飛び出すと、一人残らず標本にされちまうぞ?」
「な、なんだそれはっ! まるで……まるで地獄じゃないか!」
こいつもこいつで頭が固いな、まったく。
「だがお前らは俺の世界に行けないし、俺もここにいる連中の、それぞれの世界に行けない。安心しろ」
「それぞれの世界……って、みんな別の所から来てるのか?!」
「中には同じ世界から来た奴もいるらしいが……。俺よりもこいつらの酒場で聞く噂の方が詳しいんじゃねぇのか?」
「噂なら聞いてるさ。守銭奴の主と、慈悲深い女神がいるってな」
「「女神?!」」
女神。
女神って……シェイラのこと……だよな?
その本人は、俺の方を見てる。
俺を見たって状況変わんねぇよ。
「シェイラ……。お前、女神なんだと」
痛っ!
足、蹴飛ばされた。
「……お前の母親は、そんな風にはっきり言いきられたことがあったか?」
痛っ!
逆の足蹴られた。
……うん、いじるのやめとくか。
大人扱いしようとしても、どうしてもつい……な、うん。
それにしても、守銭奴ってどっから出てきたんだろうな?
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
6
-
-
22803
-
-
2
-
-
70810
-
-
1168
-
-
0
-
-
516
-
-
75
-
-
39
コメント