俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる

網野ホウ

女王が去った後日談:サーシャが言ったことは正しかったわけだが

 自称女王が退室した後の、部屋の中の気の緩みようはもうね。
 冷や汗をかいてないのは俺くらいかもしれない。

「そこまでかよ、お前ら」
「……そりゃあ……もう……」

 コルトまで……心なしかげっそりしてるような。

 けどな。
 武器を振り回して入ってくる奴よりはかなり楽だろ。
 基本的に穏やかな表情ばかりだったしな。

「……じゃあ早速試してみましょうよ」
「何を?」
「何を……って……食べ物が増えるんでしょ?」

 あぁ、そうだった。

 ……って、もし増えなきゃどうする?!
 まぁ、増えなきゃ今まで通りだよな。
 確か半日っつってたな。
 半日……あれ?
 十二時間か?
 六時間、じゃないよな。
 今日中に効果を見るのは無理か?
 ま、いっか。

 部屋の半分以上を空間にする。
 つっても左右半分にするより上下半分の方がいいか。
 となると、上に乗っかる物が増えるはずだから……下の物が押しつぶされるのは見たくない。
 やっぱ米が無難か。

「おにぎり作って入れた方が早くない?」
「半日も放置するってのはどうかと思うんだ。水分吸ってるし傷みやすいと思うぞ?」

 俺もその方が楽だと思うけど、半日だもんな。
 それでも米袋運び込む手間は省ける。

「ところで、だな、コルト」
「はい? 何でしょう?」
「昼のバツ、途中で終わったよなぁ……」
「あ……」

 ※※※※※ ※※※※※

 もうバツという名目も卒業しても良さそうだよな。
 おどおどする仕草も見せなくなった。
 歌で冒険者達を癒すその姿も堂々としたものだった。

 その日の夜、そんなコルトに見惚れていたが、いつの間にかその効力に巻き込まれた。
 油断した俺が悪かったけど、寝心地といい目覚めといい、なかなかいい気分だった。
 けど、なんかぼーっとしてる。
 起きた時間が中途半端だからか。
 うん、ちと寝ぼけてるかもしれん。

 歌い終わったコルトに揺り起こされた午後九時。

「う……。ふわあぁ……。あー……」
「まさかいるとは思いませんでしたよ。後片付けまだ終わってませんよね?」

 眠ってる間に小人さんが出てきて俺の仕事を……なんてのは、まぁ妄想の世界だな。
 もっとも異世界人達がこの二部屋で眠っているのも、俺以外のこの世界の人間には妄想の世界だろうが。

「あー……。まぁそうなんだが……。指輪の部屋どうなったかなー……」
「え? いや、まだ半日になってない……」

 寝ぼけた頭というのは、実に理不尽だ。
 物事を自分の都合に合わせて解釈する。

 自分の活動時間の半分を半日と言うんだろうが。

 などと言ったような気がする。

「指輪を当てて~、壁が消え……えっ?!」
「まだなんでしょ……あ……」

 倍増していた。
 俺の寝ぼけた頭が正解だったようだ。

 半日の解釈が女王とこっちじゃ違ってたのか。
 待てよ?
 指輪部屋の空いているスペースがまだ半分以上ある。
 ということは……。

「コルト」
「は……はい」
「寝る」
「え?」

 六時間ごとというなら、目が覚めたらその時間は超えているはず。
 二回目の倍プッシュだ。

「ま、まぁ溢れるってことはないでしょうけど、私はお勧めしません……」

 コルトが何か言ってる。
 コルトの歌声を聞きながら眠りたいが、流石にここで朝まで寝るのはきつい。
 って言うか、目覚めはいいはずなのに、また眠るってどういうことだと。

「あー……分かった分かった。また明日なー」
「えぇ……」

 何でコルトはそんなに反対するのか。
 まぁいいや。
 夜は寝る時間っ!
 夜勤の人は、ほんとに大変だよな……。

 ※※※※※ ※※※※※

 翌朝。
 コルトが反対した理由が分かった。
 そして、あの女王が言う半日はおよそ六時間ということも分かった。

「……米袋ですよ?」
「分かってる」
「部屋が壊れずに済みましたけど」
「分かってる」
「どうするんです? これ」
「……て」
「私、反対しましたよね」
「つだっ……」
「はぁ……まったく……」

 下から米袋を抜き取ることはできない。
 上から……うん……。
 踏み台に上がっても……とどきそうだけど、奥行きもあるし……。

 人の意見に耳を傾けるって、大事なことだよねっ!

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