俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる
来ないかもしれない招かれざる客へ備えながらの日常
国の兵士だろうが何だろうが、俺にとっちゃ乱暴者としか思えない。
乱入してきたのは今から約二十四時間前。
今この部屋にいる冒険者の中で、その時に居合わせたのは十人を超えるくらいか。
そして全員が眠っていたという、起きた部屋の中の異変。
また乱入してくる可能性は高い。
「今度は絶対押し返してやる。つっても壁に押し付けるだけだけどな」
「そいつらが来た時は、俺が見える扉も閉じたままだった。俺らの命を助けてくれたコウジに向かって魔王呼ばわりとはな」
「どんな格好してるか分からんが、休む場所を提供してくれた恩人に手をかけるなど、到底許されることじゃないっ」
「コウジ本人は呼ばれることを嫌っているが、よりにもよって救世主に向かって刃を向けるなどっ」
「コウジぃ。どんな料理が好き? 揚げ物? 焼き料理? あ、串料理なんていいかもねぇ」
怖いぞ!
最後の女の人、怖いぞ!
……職は魔法剣士?
武器はレイピア? なるほど。
だから串料理……いや、そうじゃなくて。
「わわ、私、ここ今度はしっかりと証言しますからっ!」
コルト、ビビりすぎ。
お前は変なこと口走らないだけでいいから。
けど来るか来ないか分からない奴をいつまでも待ち受けてるのも馬鹿馬鹿しい。
こっちは夜の握り飯タイムの準備もしなきゃならないし、最近はたまる一方のアイテム整理をしなきゃならない。
コルトの部屋も、足の踏み場はあるらしいし、道具作りもしてるようだが、消費量が減っている。
「どうしようもない時は、私がここに来る前のダンジョンに運び出してるんですけどね」
……人はそれを、ごみの不法投棄と呼ぶ。
それはともかく。
動ける冒険者は全員迎撃態勢を取る。
そして俺は握り飯の準備。
コルトは警戒しながらの道具作り。
スケジュールは普段通りに進み、握り飯も順調に配られていく。
けれども部屋の雰囲気は、何となく物騒な感じになる。
その間にも、冒険者達の出入りはあった。
新しい顔が入ってくるたびに、部屋の中で警戒している冒険者達は武器をかざす。
「ぐぅ……。うおっ! な、何が……」
苦しみながら部屋に入って来た者がたじろいだ声も少なくない。
が、そんな者達の中で、そのまま俺の所に近寄って来た者がいた。
「うぅ……っと……。何か中が……荒々しいな……何が、あった」
いつぞやの弓戦士だった。
また来たのかこいつ。
仲間に恵まれねぇな。
「事情を話すよりも……。あ、すまん、握り飯、こいつに先に渡していいか?」
「お、おう。コウジさんと顔見知りか?」
「何度もダンジョンでピンチに陥るへぼ冒険者」
「へぼはないだろうよ……くっ……」
脇腹を抑えてる奴に物を食わすのもどうかと思うんだが、胃の辺りに痛みを感じる奴も握り飯食ってしばらくしたら治ったって言うから、我ながらつくづく不思議な物を作ってるとしか。
次の順番待ちの冒険者が、弓戦士に自分の握り飯を譲った。
俺が大まかな成り行きを説明すると、弓戦士はその流れを理解した。
「なるほど。……くっ……。痛みが治まったら俺も加勢しよう。だが睡眠か催眠を、目に届かない範囲にかける術ってのは珍しいな」
術の知識や常識なんかは全く知らない。
ゲームの知識がここで通用するわけもないし。
とりあえず、自分でできる自衛は用意周到にな。
「わ、私はどうしましょう……」
「お前はバツを続けること」
「ふ」
「ふえぇ禁止な。お前の課題はこの件が発端だが、この件がなくても今後のお前の人生の課題だぞ? いつも誰からかに守られてばかりの生き方してたら、その相手が見つからなかったら人生の終わりじゃねぇか」
「……バツ? コルトちゃんが何かしたのか?」
コルトが余計なことを喋ったことを、この弓戦士にはまだ伝えてなかった。
つーか、そんなことを説明の途中で挟んだら、兵士らへの対策という本題が、こいつへの非難に変わっちまうからな。
「まぁ……コボルト少年の時もどぎまぎしてたしな。じゃあ俺もそのバツを監視してやるよ」
流石常連。最後まで説明する前に察してくれた。
「そ、そんなぁ……」
「そうしてくれると助かる。コルト、お前の晩飯はそれ終わった後な」
「え、ええぇぇ?!」
「バツをする前に飯の用意したって、緊張して食えてなかったじゃねぇか。後片付けは俺がやっとくから心配すんな」
コルトの奴、しょぼんとしてやがる。
そういう問題じゃない、みたいな一言でも返せたら、バツをさせることも考え直しても良かったんだがな。
「あ……。お前の分の晩飯まで配っちまった。下で作って来るからお前、二部屋の真ん中で始めとけ。そこの弓さん、コルトのこと頼むわ」
「おう、任せな。……さ、どんな歌聞かせてくれるのかな?」
「ふえぇ……」
……こりゃしばらく精神を鍛える期間、長くかかりそうだ。
乱入してきたのは今から約二十四時間前。
今この部屋にいる冒険者の中で、その時に居合わせたのは十人を超えるくらいか。
そして全員が眠っていたという、起きた部屋の中の異変。
また乱入してくる可能性は高い。
「今度は絶対押し返してやる。つっても壁に押し付けるだけだけどな」
「そいつらが来た時は、俺が見える扉も閉じたままだった。俺らの命を助けてくれたコウジに向かって魔王呼ばわりとはな」
「どんな格好してるか分からんが、休む場所を提供してくれた恩人に手をかけるなど、到底許されることじゃないっ」
「コウジ本人は呼ばれることを嫌っているが、よりにもよって救世主に向かって刃を向けるなどっ」
「コウジぃ。どんな料理が好き? 揚げ物? 焼き料理? あ、串料理なんていいかもねぇ」
怖いぞ!
最後の女の人、怖いぞ!
……職は魔法剣士?
武器はレイピア? なるほど。
だから串料理……いや、そうじゃなくて。
「わわ、私、ここ今度はしっかりと証言しますからっ!」
コルト、ビビりすぎ。
お前は変なこと口走らないだけでいいから。
けど来るか来ないか分からない奴をいつまでも待ち受けてるのも馬鹿馬鹿しい。
こっちは夜の握り飯タイムの準備もしなきゃならないし、最近はたまる一方のアイテム整理をしなきゃならない。
コルトの部屋も、足の踏み場はあるらしいし、道具作りもしてるようだが、消費量が減っている。
「どうしようもない時は、私がここに来る前のダンジョンに運び出してるんですけどね」
……人はそれを、ごみの不法投棄と呼ぶ。
それはともかく。
動ける冒険者は全員迎撃態勢を取る。
そして俺は握り飯の準備。
コルトは警戒しながらの道具作り。
スケジュールは普段通りに進み、握り飯も順調に配られていく。
けれども部屋の雰囲気は、何となく物騒な感じになる。
その間にも、冒険者達の出入りはあった。
新しい顔が入ってくるたびに、部屋の中で警戒している冒険者達は武器をかざす。
「ぐぅ……。うおっ! な、何が……」
苦しみながら部屋に入って来た者がたじろいだ声も少なくない。
が、そんな者達の中で、そのまま俺の所に近寄って来た者がいた。
「うぅ……っと……。何か中が……荒々しいな……何が、あった」
いつぞやの弓戦士だった。
また来たのかこいつ。
仲間に恵まれねぇな。
「事情を話すよりも……。あ、すまん、握り飯、こいつに先に渡していいか?」
「お、おう。コウジさんと顔見知りか?」
「何度もダンジョンでピンチに陥るへぼ冒険者」
「へぼはないだろうよ……くっ……」
脇腹を抑えてる奴に物を食わすのもどうかと思うんだが、胃の辺りに痛みを感じる奴も握り飯食ってしばらくしたら治ったって言うから、我ながらつくづく不思議な物を作ってるとしか。
次の順番待ちの冒険者が、弓戦士に自分の握り飯を譲った。
俺が大まかな成り行きを説明すると、弓戦士はその流れを理解した。
「なるほど。……くっ……。痛みが治まったら俺も加勢しよう。だが睡眠か催眠を、目に届かない範囲にかける術ってのは珍しいな」
術の知識や常識なんかは全く知らない。
ゲームの知識がここで通用するわけもないし。
とりあえず、自分でできる自衛は用意周到にな。
「わ、私はどうしましょう……」
「お前はバツを続けること」
「ふ」
「ふえぇ禁止な。お前の課題はこの件が発端だが、この件がなくても今後のお前の人生の課題だぞ? いつも誰からかに守られてばかりの生き方してたら、その相手が見つからなかったら人生の終わりじゃねぇか」
「……バツ? コルトちゃんが何かしたのか?」
コルトが余計なことを喋ったことを、この弓戦士にはまだ伝えてなかった。
つーか、そんなことを説明の途中で挟んだら、兵士らへの対策という本題が、こいつへの非難に変わっちまうからな。
「まぁ……コボルト少年の時もどぎまぎしてたしな。じゃあ俺もそのバツを監視してやるよ」
流石常連。最後まで説明する前に察してくれた。
「そ、そんなぁ……」
「そうしてくれると助かる。コルト、お前の晩飯はそれ終わった後な」
「え、ええぇぇ?!」
「バツをする前に飯の用意したって、緊張して食えてなかったじゃねぇか。後片付けは俺がやっとくから心配すんな」
コルトの奴、しょぼんとしてやがる。
そういう問題じゃない、みたいな一言でも返せたら、バツをさせることも考え直しても良かったんだがな。
「あ……。お前の分の晩飯まで配っちまった。下で作って来るからお前、二部屋の真ん中で始めとけ。そこの弓さん、コルトのこと頼むわ」
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