俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる

網野ホウ

俺が異世界人にできないこと、そしてできること

 俺はコルトに無理やり子供達の前に連れてこられた。

「で? 何をどうすりゃいいんだ?」

 四人ともしゃくりあげながら泣いている。
 それだけ心にショックを受けてるんだな。
 それでも握り飯を食いきったのは褒めてやってもいいか。
 食わなきゃ体力を維持できないからな。

 だが、子供にそんなショックを受けたことを喋らせるのも酷だ。
 って、見た目、十五か十六か。
 子供というには微妙だが、この部屋に来る冒険者達と比べれば、まだ子供か。

「で、泣いている子供ら相手に、俺はどうすればいいんだ?」
「え、えーと……」

 連れてきた本人が困惑するなよ。
 そもそもお前は子供らから話聞いたのか?

「私が話そう。この子達は冒険者の養成所に通ってたらしい」

 女魔導師が説明を始めた。
 落ち着いた口調は、実に頼りになるって感じがする。
 それに比べてコルトは……落ち着きがねぇな。

「卒業の試練の一つとして、指導員一人と共にダンジョンに入ったんだそうだ」

 まぁ子供四人なら目が行き届くか。

「話を聞けば、その指導員は相当腕が立つ冒険者だったらしい」
「だった?」

 過去形ってのが嫌な予感をさせるんだよな、大概。

「あぁ、亡くなったらしい。そこら辺の状況は詳しくは聞いてないが、おそらく不意打ちか予想外の事故が起きたんだろう」
「それで心細くなって?」
「いや、違う。その指導員に襲われたんだそうだ」

 熟練の冒険者が幻術でも食らったとでもいうのかね。
 ま、そっち方面の経験が全然ないから偉そうなことは言えんけど。

「おそらく瘴気でも漂ってたんじゃないか? 屍鬼に変わり果てたんだそうだ」

 そりゃあ……。
 さっきまで丁寧に指導をしてくれた相手が動かなくなって、また動いたら安心しただろ。
 そしたら今度は打って変わって襲い掛かるってんだから。
 悪夢、だよな……。
 泣きじゃくるのも仕方ないか。

「指導員だった屍鬼の一撃で四人が吹っ飛ばされた。その先にここへの扉があって、何とか難を逃れた、ということらしい」

 絶望じゃん。
 でもこいつらにとって絶望ってことで、脱出しようと思えば出来るんじゃねぇのか?
 とは言っても、冒険者の実態も知らないし、連中の活動中の苦労も知らない。
 俺に説得力あるわけないっての。

 コルトは四人の頭を撫でながら慰めてるばかり。
 けど俺の頭で考える範囲だが、こいつらにとっての救いはいくつかあるんじゃないか?

「指導員ってことは、こいつらは生徒とか、そんな感じだよな?」
「えぇ、そうね」
「となりゃ、そんな非常事態だから救助活動も行われてるはずだ」
「私もそう思う」
「しかも未熟な冒険者を連れて行く現場って、熟練者が用心している限りは、難易度は低い方だと思うんだが」
「そうね。でも……」

 言葉を濁すな。
 それも嫌な予感しかしないから。

「親しい者が目の前で亡くなったのを見たら流石にすぐには立ち直れないんじゃないかしら? 大人ならともかく……」

「親しい人を亡くしたって言うなら、コウジさんだってそうでしょ? しかもこの子達とそんなに年が離れてない頃に」

 急に何を言い出してんだ? コルトは。

「俺は冒険者になったことはないし、そもそも冒険者って職業は俺の世界にないんだってば」

 探検家はいるだろうけどな。
 だから俺がこいつらにしてやれることは握り飯食わせることくらいだし、それはみんなにも同じ

「そうじゃなくて。コウジさん、この子達と同じ頃にお父さんとお母さん死んじゃったんでしょ?」
「「「「え?」」」」
「え?」

 あ、そっちの話?
 って言うか、大事な人を亡くしたのは今から十年以上前の話だぞ?
 こいつらはついさっきの話だろ?
 比べようがないっつーの。

「……おじさん、お父さんもお母さんもいないの?」
「……お兄さん、だ」

 二十七歳男性は、見知らぬ子どもからおじさんと呼ばれる年齢じゃないはずだ。

「……さみしくないの? おじさん」
「お兄さん、だ」
「コウジさん……。そこ、拘らなくていいんじゃ」

 間違いを正すのが大人の役目。
 お兄さんに向かっておじさんと呼ぶ間違いを直すのは間違いじゃないはずだ、うん。

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