俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる
弓戦士、ノートに書く:コルト砲の目撃者 1
そいつはコウジのことをどう感じたのか。
俺達を助けるためだけに存在する奴隷などと思っているのか。
あいつは神じゃない。
俺の世界にも存在する、魔法を使えない、人という種族だ。
だからこそ俺は、いつも挨拶する近所の人同様に、敬語などなく、親しい感情を持つようになった。
恥ずかしながら、別の迷宮で同じように命の危機が迫ったとき、あの扉があることに気付いて、そこに逃げ込んだ。
俺が窮地に立たされた場所は違うのに、最初にコウジと会ったあの部屋に着く前は、ひょっとしたらという思いと、まさかそんなことはあるまいという疑念を持っていた。
それがどうだ。
同じ部屋。
あの時と同じように大勢いた冒険者達。
そして、コウジ。
「や、やぁ……。ま、また来たよ」
場所も状況も、戦っていた魔物も違うが、危険な目に遭っていたことは変わりがなかった。
成長がない。
我ながらそう思ったからこそ、コウジからも指摘されるか、と恥ずかしい思いを堪えて何とか挨拶の言葉をかけた。
だが返ってきた言葉は
「誰だよ、お前」
の一言だけ。
そして直後に、彼は俺のことを無視するかのように後ろを向いて、何やら作業を始めた。
一人一人のことを憶えてる暇がないのだな。
この存在が神であるはずがない。
神だったら憶えているはずだ。
そう思った。
だからこそ、親近感と一緒に敬意も持った。
その時はすでに、ダンジョン内の救世主の噂を聞いていた。
「……また世話にな……ります。しかし、またほとんど手持ちのアイテムもなく、その……心苦しいのだが、代わりに何か手伝いを……」
「誰が救世主だゴルァ。俺は、ただの、人間だ! どこの誰だ、そんなことを言い始めたのは!」
論点がずれた。
いや、ずらされたか。
再度呼び止めようとしたが、また壁の向こうに消えていった。
どれくらい時間が経っただろうか。
壁から突然彼が現れた。
「お前らー、握り飯の……、おいっ!余分に持って行くなっ! 怪我人が先だぞ! おまっ! おいっ! こっち側にくんな!」
生き残るための握り飯争奪戦。
血が流れることはなかったが、鬼気迫る勢いとはその握り飯を取りに来た冒険者達のことを言うのだろう。
あっという間に握り飯はなくなった。
こんな光景は初めて見た気がする。
何も出来ず呆気にとられていると、コウジはまた姿を消し、またこの部屋に現れたときには、握り飯をきれいに並べたトレイを持ってきた。
繰り返すこと六回。
回数を追うごとに、握り飯を求める冒険者達の様子は穏やかになっていく。
コウジは疲れたような、そして呆れたような顔をしていた。
これを一人でやっているのか?
あれだけの数を、一人で作っているのか?
けどその表情は、人間ならではだろう。
俺だって対応しきれない。
何人かの冒険者達も、そんな彼の表情を見ている。
しかし俺も含めた全員が握り飯を堪能していて、コウジはいつ休むのだろう? と彼の方をチラリと見ると
全員を見回しながら苦笑いを浮かべていた。
まるで父親が、無邪気に飯を頬張る子供を見るような顔じゃないか!
不意に胸が熱くなったのと、コウジの視線がこっち側に動くのを見て、反射的に持っていた握り飯に齧りつく姿勢で顔を隠した。
あのコウジの顔は誰も見ていない。
俺は顔が歪んでいるのが自分でも分かったから、それがばれないように部屋の隅に移動した。
※※※※※ ※※※※※
その冒険者がコウジに何か文句を言っているのは理解できた。
だが遠くにいたから、何を言っているのか分からなかった。
他の冒険者達との会話の様子を見れば、彼は我々と距離を置きたがってるのは分かった。
しかし何も知らないくせに、全てを分かったような物言いは我慢ならなかった。
コウジがここから出たら、力尽くでも追い出してやる。
そのことでコウジから出禁を言い渡されても構わない。
俺は、コウジの姿が消えたのを見て、彼に近づこうとした。
「大人のくせに我がまま言いたい放題でみっともないです!」
その瞬間、女の子の声が二部屋中に響き渡った。
俺達を助けるためだけに存在する奴隷などと思っているのか。
あいつは神じゃない。
俺の世界にも存在する、魔法を使えない、人という種族だ。
だからこそ俺は、いつも挨拶する近所の人同様に、敬語などなく、親しい感情を持つようになった。
恥ずかしながら、別の迷宮で同じように命の危機が迫ったとき、あの扉があることに気付いて、そこに逃げ込んだ。
俺が窮地に立たされた場所は違うのに、最初にコウジと会ったあの部屋に着く前は、ひょっとしたらという思いと、まさかそんなことはあるまいという疑念を持っていた。
それがどうだ。
同じ部屋。
あの時と同じように大勢いた冒険者達。
そして、コウジ。
「や、やぁ……。ま、また来たよ」
場所も状況も、戦っていた魔物も違うが、危険な目に遭っていたことは変わりがなかった。
成長がない。
我ながらそう思ったからこそ、コウジからも指摘されるか、と恥ずかしい思いを堪えて何とか挨拶の言葉をかけた。
だが返ってきた言葉は
「誰だよ、お前」
の一言だけ。
そして直後に、彼は俺のことを無視するかのように後ろを向いて、何やら作業を始めた。
一人一人のことを憶えてる暇がないのだな。
この存在が神であるはずがない。
神だったら憶えているはずだ。
そう思った。
だからこそ、親近感と一緒に敬意も持った。
その時はすでに、ダンジョン内の救世主の噂を聞いていた。
「……また世話にな……ります。しかし、またほとんど手持ちのアイテムもなく、その……心苦しいのだが、代わりに何か手伝いを……」
「誰が救世主だゴルァ。俺は、ただの、人間だ! どこの誰だ、そんなことを言い始めたのは!」
論点がずれた。
いや、ずらされたか。
再度呼び止めようとしたが、また壁の向こうに消えていった。
どれくらい時間が経っただろうか。
壁から突然彼が現れた。
「お前らー、握り飯の……、おいっ!余分に持って行くなっ! 怪我人が先だぞ! おまっ! おいっ! こっち側にくんな!」
生き残るための握り飯争奪戦。
血が流れることはなかったが、鬼気迫る勢いとはその握り飯を取りに来た冒険者達のことを言うのだろう。
あっという間に握り飯はなくなった。
こんな光景は初めて見た気がする。
何も出来ず呆気にとられていると、コウジはまた姿を消し、またこの部屋に現れたときには、握り飯をきれいに並べたトレイを持ってきた。
繰り返すこと六回。
回数を追うごとに、握り飯を求める冒険者達の様子は穏やかになっていく。
コウジは疲れたような、そして呆れたような顔をしていた。
これを一人でやっているのか?
あれだけの数を、一人で作っているのか?
けどその表情は、人間ならではだろう。
俺だって対応しきれない。
何人かの冒険者達も、そんな彼の表情を見ている。
しかし俺も含めた全員が握り飯を堪能していて、コウジはいつ休むのだろう? と彼の方をチラリと見ると
全員を見回しながら苦笑いを浮かべていた。
まるで父親が、無邪気に飯を頬張る子供を見るような顔じゃないか!
不意に胸が熱くなったのと、コウジの視線がこっち側に動くのを見て、反射的に持っていた握り飯に齧りつく姿勢で顔を隠した。
あのコウジの顔は誰も見ていない。
俺は顔が歪んでいるのが自分でも分かったから、それがばれないように部屋の隅に移動した。
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その冒険者がコウジに何か文句を言っているのは理解できた。
だが遠くにいたから、何を言っているのか分からなかった。
他の冒険者達との会話の様子を見れば、彼は我々と距離を置きたがってるのは分かった。
しかし何も知らないくせに、全てを分かったような物言いは我慢ならなかった。
コウジがここから出たら、力尽くでも追い出してやる。
そのことでコウジから出禁を言い渡されても構わない。
俺は、コウジの姿が消えたのを見て、彼に近づこうとした。
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