俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる

網野ホウ

宴の後 みんなが寝静まる中でエルフと二人

 ここに来る連中を見て、健康管理、しっかりしてるなーと思えることがある。
 まず睡眠時間の長さと確保。
 連中が眠る時は、壁に背を預けながら座りながらだ。
 そして、時計を持ち込んでからは夜九時には就寝のようだ。
 もちろん具合が悪い奴を優先に床に横たわらせている。
 そして握り飯を食い終わったらすぐに眠っているみたいだ。

 ここに来る連中は、みんな今まで鬱屈していたんだろうな。
 こいつらにとって異世界ではあるが、空模様はみんな同じらしい。
 特に、夜になると暗くなるのは道理。そして星と月もあるんだそうだ。数はまちまちらしいがな。

 長らく見ることがなかった景色を見ただけで、まるでお祭り騒ぎって感じだった。
 防音にしといたのは、つくづくというか我ながらというか、実に胸を撫で下ろすほどのことだった。
 けど、俺の心境はみんな分かんないだろうな。
 何と言うか、お祭り騒ぎみたいな感じだった。
 まるで花火を見るように、みんな窓を通して夜空を見てた。
 普段食わないうどんを食わせたのもその要因の一つだったんだろうがな。

「……コウジさん」
「ん? コルトはまだ起きてたのか? お前も夜更かしすんなよ?」

 時々釘を刺したものの、それでもみんな喜び疲れたのか、みんなが思い思いの格好で寝静まっている。
 夜の時間につける室内灯が、キッチンの辺りのみを薄明るくしてくれている。
 なるべく音を立てないように蛇口から水を出しながら、飯時の後片付けの洗い物をしていた。
 みんなと一緒に寝てると思ってたんだが、コルトはまだ起きてた。
 っていうか、こいつ専用の個室も作ってやったのにな。
 道具作りだって、素材不足になれば仕事は中断するだろうに。
 中断したら、他にすることがなきゃ寝るだけだろうに。
 洗い物の手伝いは、またいつもの日常になってからやってもらうさ。
 それまでは無理して仕事を増やさなくてもいいんだが。

「……コウジさん……」

 何度も呼ぶな。聞こえてるよ。

「何だよ。こっちはまだ洗い物中だ。皆を起こさずに洗うのって、すげー疲れるんだぞ?」
「私……やっぱり空が見たかったみたいです」

 コルトを見ると、窓から見える夜空をまだ見ていた。
 うどんの方はすっかり食べ終わって手ぶらだけど。
 そりゃあのままずっと見上げてたら滑稽だけどな。

 けど……。
 やっぱり空はみんなに必要なんだよ。

「……外の空気も欲しかったところだろうが、隙間風で我慢してくれ」

 水道管や電気の配線の穴を通して空気は流れる。
 が、外の風に当たるのは無理な話。せいぜいそれで我慢してもらいたいところだ。

「やっぱり私、死ぬときはここで死にたいな。青空に見守られながら……」
「それと、壁の窓から見える緑にもな」

 壁の窓が忘れられている。
 だが山の木々しか見ることができないからしょうがないか。
 というかだな。

「けどこの部屋に死体が出る。俺はそれをどうしていいか分からん。動物の死体なんて言い訳も効かないだろうし」

 ここで死なれたら本気で困る。
 こないだの決意はどこに行ったよ?

「ふふ、そうですね。でも、死ぬ前に空を見ることができたことは……うれしいです」
「防具の件は本当に助かったからな。それにこれからもちょくちょく作ってもらいたいし。いつかは別れる時が来るからお前に依存するわけにはいかないけどな。でもよく金属の溶接とかできるよな」
「あ、それは私がここに来る前にいたダンジョンの中で、魔法使って加工してましたから」

 なるほど。
 あれ?
 待てよ?

「考えてみりゃ、今までトイレとかどうしてたんだ?」
「……女性の口から言わせるんですか? 場所はそのダンジョンですけどね……」

 いや、何と言うか。
 すまん。

「でもお風呂場まで作ってもらって……。私の世界では、私にこんなに良くしてくれた人はいませんでした」
「けど、今も言ったがお前も俺に依存するんじゃねぇぞ? せいぜいうどんの好きな具までにしとけ」
「ふふ。はい、これからもお世話になります」

 コルトはようやく俺の方を向いた。
 ずっと見てたわけじゃないけど、天窓見てからうどん食う以外はずっとそのまんまだったんじゃないか?
 首、疲れると思うんだが。
 でもそんな疲れも忘れるか。
 見たい物が見れてうれしそうな顔してりゃあな。
 流れてた涙もすっかり止まって、いい笑顔してるなぁ。

「こっちこそな」

 ところで、エルフって言ってたよな?
 老いるまで何年生きるんだろ?

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