俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる

網野ホウ

更なる儲けを狙った販売戦略

 こんなことで、コルトにまた防具作りを頼んで五日後。
 女性用の防具一式を二組作ってもらった。
 前回と同じく革製品のような、胸部、腰部。そして両手足の四か所の防具。

 まあ俺も性別は男だから、胸部のふくらみにはドキッとさせられる。
 しかし、である。

「で、こういう風につけて……」

 とレクチャーするコルトが胸部の防具をつける。
 真っ先に俺の頭の中に浮かんだのは

「上げ底」

 の一言。

 動画を載せたらどんなコメントが来るか、大体想像できる。
 二つの派閥の論争がまず始まるだろうな。
 そしてもう一組の防具のモデルについては、俺はうざったいほど迫って来る女魔術師に根負けした。

「そうまでしてうどん食いたいのか」
「休む以外は退屈だしねー」

 他の女性冒険者達がこいつを羨ましそうに睨んでいる。
 今ここに居る女性冒険者達は、おそらくみんなここには初めて来たんだろう。
 俺に対してこんなに近づく女性冒険者はこいつだけ。
 ここに来るのは三回目か四回目くらいか。
 馴れ馴れしくもなるんだろうな。

 二人一緒に動画を撮る分手間が省けるということと、うざったい奴から早く解放されたいということで俺の方が折れた。

「職種は違うけど、特別な加工はされてないし、身につけるだけだからね」

 自分で繕ったんだろう。
 女魔術師はつぎはぎだらけのマントとその職用の衣装を周りの目を気にせずに脱ぐ。

「あのな、デリカシーってもんをな」
「着替える場所なんてないじゃない。コルトちゃんはコウジに専用のスペース作ってもらったようだけど、流石に私がそこも利用させてもらうわけにはいかないでしょ」
「そ、そんなこと……ないですけど……」

 この魔術師、女、捨ててるだろ。
 けどその体型は見事なもんで、コルトの体型の残念さが浮き彫りにさせられている。

「あら? サイズが小さいわね」

 うるせぇ。
 お前に合わせて作ったんじゃなく、その防具の販売価格をあげるためのプロモーションのための撮影だ。
 とっとと終わらすぞ。

 そりゃ異性の体に興味がないわけじゃないが、異世界に住む存在が相手なら、同じ人間体でもどんな仕掛けがあるか分からん。

「……うらまやしいです」

 魔術師の、肌の露出が多くなった体を見て、いきなり何を言い出してんだ、コルトは。
 そいつが付けた胸部の防具が体から浮いてる感じになってんだが……胸を覆うというより、下着を覆ってる感じだな。
 まぁいいや。

「んじゃ改めて防具のつけ方と外し方を見せたいから。言っとくがお前らの体がメインじゃねぇからな?」
「コウジのえっちぃ」
「やかましい!」

 コルトはともかく、この部屋から去ったらもう来ないかもしれない奴に一々構ってられるか。
 それと、欲望に身を任せたような、前回の動画のコメントにもなっ。
 もっとアップにしてくれ、などと言うコメントにも付き合ってられん。
 こっちは販売中心なんだ!
 っていうか、店の死活問題にも響く。
 己の欲望に振り回されてる場合ではないっ。

「よし、こんなもんだな。服、着ていいぞ」

「あ……はい……」

 コルトは元気がないな。
 うどんは生卵に天ぷらも入れてやるか。

「……コウジさん、興味ないの?」
「何がだよ」

 女魔術師はなんかつまんなそうに着替えている。
 こっちの知ったこっちゃない。
 うどんくらいは作ってやるがな。

 前回と同じように、コルトの説明も入れながらの撮影だったから、編集作業も特に必要なさそうだ。
 サイトにあげて、そしていつもの握り飯作り。
 夜の握り飯タイムが終わった後には購入者は決まってるだろう。
 俺の所持金だけで俺の計画を立てられれば、コルトも俺も負担がかなり減ることになる。
 けどまだまだ期間はかかりそうだな。

 ※※※※※ ※※※※※

 夜の握り飯タイムがやってきた。
 この時間は週に一度のうどんタイムでもある。
 が、いつものうどんタイムに、日中の約束通り、女魔術師も混ざる。

「あ、テンプラ、でしたっけ? も入ってるー。卵もだー」

 コルトは子供のようにはしゃいでる。
 天ぷらうどんを出したこともあるが、こんな風には喜んでなかった。
 卵があってこそか。

「おい、お前」
「女性に向かってお前って言い方はないんじゃない?」
「だって俺、お前の名前知らねぇもん」

 女魔術師は呆れた顔を俺に向けた。

「私は……」
「一々一人一人に合わせて作るのも面倒だから、天たまうどんにしたから。好みに合わなきゃコルトに食わせて、握り飯に切り替えろ。それとお前におかわりはないから。コルトにはあるけど」
「コウジさん、あなたねぇ……」

 コルトは戸惑っている。
 こいつに比べて優遇されてると思ってるんだろう。
 けどそれは、俺にとっちゃ当たり前。
 ずっとここにいる。そして働かせてください。
 俺にそう言って、俺はそれを受け入れた以上この待遇の差は当然だ。

「食うんならとっとと食え。いただきまーす」
「「いただきます……」」

 と、挨拶をした直後から、俺はスマホを取り出して、防具が売れたかどうかを見てみる。

「食事しながら何かを見るとか読むとかは行儀悪いですよ?」

 異世界でも行儀の良し悪しはあるのか。
 けど売れ行きが気になってしょうがない。
 握り飯を作ってる間は、数が多いから目を離すわけにはいかなかったからな。

 ……って……俺の目がおかしいわけじゃないよな。

 前回売れた値段の二倍弱の値段で売れた。
 けどこれは……。

 文字が読めないなら見せてもいいが、見せても意味が分からないから意味がない。
 読めるのなら、二人には見せられない。

 コメントには、俺の想像通りのことが目いっぱい書かれてた。

「俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く