勇者パーティーの回復魔法師、転生しても回復魔法を極める! 〜只の勤勉で心配性な聖職者ですけど?〜

北河原 黒観

第27話、異変

 リーヴェの放った矢がララノアの指導の元、見事パペットの右胸付近に命中、深く突き刺さる。
 矢ではパペット相手に致命傷とはいかないが、その衝撃でよろけたパペットが足を踏み外したため、落差のある下の路地へと落ち五体がバラバラになった。

 今のは偶然転落したのだろうが、あの遠い敵に見事命中させる技術、リーヴェは弓矢の才能があるのじゃないのか!?

 ……考えてみれば、ナイフで野うさぎを狩る実力の持ち主。武器の射程が伸び、尚且つ遠距離専用の武器を持てば、その分命中精度が上がるのは容易に想像出来る話。

 ただかなりの慎重派に思える。
 と言うのも、リーヴェは矢を放ってから次の矢を放つまでの間隔がかなり長い。

 それは恐らく森での狩りと同じ感覚だから。
 森では息をひそめ身を隠し気配を断つと、ナイフ片手に獲物が来るのをジッと待つ。
 それは一度でもしくじると、獲物が手の届かない深い茂みの中へ逃げ込んでしまうから。

 それが癖として、今もこうして彼女の中で絶対に当たると確信した時にしか放たない型となっているのではないだろうか。

 その点ララノアはリーヴェと違い、見ていると惜しみなく矢を放つ時がある。
 それには何か条件があるのではと更に見ていると、どうやら進行方向上に敵がいる時にだけ多く射っているのが分かってきた。
 進行方向上に矢を放つ行為、つまり当てても外してもその後道なりに進むと矢が回収出来る方向。

 専門で弓を扱うだけの事はあって、そこら辺の知識は私より遥かに熟知している。
 流石ララノア、冒険者の先輩でありダンジョンでの俺たちの先生だ。

 そうして私たちは遭遇するドギーマンを片っ端から片付けて行っていると、結局城下町を縦断しここから城へと伸びる断崖絶壁に浮かぶような上り坂の通路前まで来ていた。

 そこでララノアが、何かを探すように首を左右に振り辺りを見回す。

「あれ? 誰もいないわね」

「ララ先生、どうかしましたか? 」

「いやね、この時間帯ならだいたいここら辺に見張り番の人がいるはずなんだけど、……サボってるのかな? 」

 そこで私もオールヒールを使い、半径100メートル内を調べてみる。
 ここから離れた所に、何体かモンスターらしき反応はあるが——

「今確認していますけど、近くに人の反応はないみたいですね」

「……ん? あぁ、無属性魔法の周辺探索サーチを使ってるの? 」

「いえ、回復魔法を改良して探索しています」

「……あぁ、そうなのね」

 そして周辺の物陰やらを覗き込んでいたララノアがリュックを見つけと、胸の下で腕を組んで逡巡する。

「……やっぱり気になる」

 そこで何処か気が抜けたような雰囲気を纏うララノアが、真剣味を帯びた表情に変わる。

「私の考えが杞憂であって欲しいんだけど、今から私は単独で城エリアに行って確認を行なってくるから。それでみんなは、その間ここで待っててくれないかな? 
 それでもし30分経っても私が戻らなかった時は、ごめんけど三人だけで来た道を戻って、この事を警備兵の人に伝えて欲しいの」

「確認って具体的には何をするのですか? 」

「城エリアの魔素量の確認よ。今の所ここら辺で魔素量の高まりは感じないけど、ダンジョンが活性化間近だと、深部から段々と魔素量が高まって来るらしいから」

 ダンジョンの活性化。
 この異空間は何処までも特殊で、その中の一つにダンジョン内で命を落とすと亡骸がモンスター同様目の前で霧散してしまう。

 それを今世では、ダンジョンに喰われるとされ恐れられているのだが、それは私が知るハウニの教えとは異なる。
 人は死ぬ際時と場合によるが、大抵の場合大量の負なる感情をこの世に撒き散らしてしまう。
 そしてハウニの教えでは、ダンジョンは生物が撒き散らす感情でこの星が汚れるのを防ぐ濾過装置の役割をしているとされている。

 そのため戦争などで多くの人が短時間で一気に死ねば、また世が腐り生きている人々の不満が集約し最高潮に高まってしまえば、ダンジョンが活性化してこの星を綺麗にしようとする。

 そしてダンジョンが活性化すると、常時産み出されているモンスターと言う名の癌が一気に大量生成。数万と言う規模のモンスターの大群がダンジョンから溢れ出し、周辺の街々を襲う惨事となってしまう。

 それがこのダンジョンで、今から起ころうとしているかもしれない。

「なるほど、分かりました。私たちも同行します」

 ララノアを纏う空気が、刺々しいものへ変わる。

「アルド、なにを言ってるの? 」

 私に食ってかかってくるララノアを一先ず置いておいて、リーヴェとエルへ視線を向ける。

「リーヴェ、ここから先はエルから離れては駄目だ。エルは第一にリーヴェを守ってやってくれ。そして私はそんなお前たち二人を死んでも守りきる、と考えているのだが、それで良いか? 」

「「はい! 」」

「駄目よ、予想が的中している場合、生きて帰って来られないかも知れない」

「私たちの事は気にしないで下さい。それに最悪、私はララ先生を見捨ててでもこの二人を絶対に生きて返しますので」

「……確かにアルドの実力ならそれも可能そうね。しかし歯に衣着せぬ物言い、ある意味スカッとするわ」

「えぇ、だからララ先生は一人だと思って、私たちを気にする事なく行動をされて下さい」

「わかったわ」

 いるはずの警備の者がいない状態。
 取り越し苦労なら良いが、これが悪意からなる事態であるならば、既にこのダンジョン内に安全な場所は存在しない。

 何処にいても同じであるならば、一人でも多くの者でいるほうがより安全。

 ……それにララノア一人では危険すぎる。

 城下町と聳え立つ城とを繋ぐ左右が断崖絶壁の上り道を、私たちは纏って進んでいく。

 そして道の中腹辺りにまで来るとあまりの傾斜に道が階段に変わっているのだが、そこで確かに空気が変わる。

「ララ先生! 」

「えぇ」

 オールヒールには複数のモンスターの反応が。それは今尚増え続けている!

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