勇者パーティーの回復魔法師、転生しても回復魔法を極める! 〜只の勤勉で心配性な聖職者ですけど?〜
第23話、ガールズトーク①
次の日、夜明けと共にローゼルの街を出立した私たちは、ここから日帰りで行けるダンジョンであり、レコ王国に唯一存在するダンジョンである『断崖絶壁の虚空城』へ向け街道を歩いている。
最後尾を歩いている私は前を歩く彼女らの左端、ララノアへチラリと視線を向ける。
ララノア=クライシス。
現役C級冒険者でギルド専任講師でもある彼女は、リーヴェと違い混じりっけなしのダークエルフ。
両親はアニマ教らしいのだが、彼女自身はそんな両親と決別、故郷を捨てて現在この街でエルグドルグ教に入っているらしい。
そのためなのか、生粋のダークエルフであるが、ハーフであるリーヴェに対して差別めいた視線は今のところしていない。
因みにリーヴェは父親がダークエルフ。
元々病弱だった母親を物心つく前に亡くしているリーヴェは、そんな父親と森の家で暮らしていた。
しかしある日、眼が覚めると幼い彼女を置いて父親は居なくなっていた。一人残された彼女は、食料の木の実が尽き森を彷徨っているところで奴隷商人に捕まってしまう。
リーヴェ自身は今も良く思っているようだが、幼い彼女を置いて姿をくらまし、その後10年もの間音沙汰なしの酷い父親だ。
リーヴェは用事があって戻って来られないと信じ込んているが、仮に父親探しをしたいと言いだしたら私は反対をするだろう。
そしてララノアは、そんなリーヴェの父親と同姓同名のダークエルフを知っていたのだが、そのダークエルフは半世紀前に亡くなった偉人だそうで、赤の他人と言う事が分かった。
しかしその父親の名前のおかげでリーヴェとララノアの距離がグッと近づき、リーヴェがおさがりの弓矢を貰うぐらいの仲にまで発展していた。
まぁララノアはエルとも気さくに話しているため、元々そういう人物なのかもしれないが。
ただやはりララノアが、リーヴェと同じ弓とナイフを扱うスタイルなのはかなり有難い。
弓矢、私はもちろん扱えないし、前世も含めて弓矢を扱う人間を間近で見た事すらない。そのためアドバイスなんて出来る訳がない。
手探りで紆余曲折しながらの独学より、先生がいて色々と教えてくれるのとでは、同じ時間を使っても上達に雲泥の差が出てしまう。
リーヴェはこれからの短い時間、食らいついてでもララノアから色々と教えて貰わないといけないのだが、まぁリーヴェもなんだかんだで真面目だから、そこは心配しなくて良いだろう。
「それじゃ、ターゲットの話に移りましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
そこから急にリーヴェとララノアの会話が小声になった。
どうやら秘密会議をするようだ。
◆ ◆ ◆
「ちなみにリリっちは、今までどれくらいの経験があるの? 」
「ナイフは狩りでウサギを少々、弓矢は初めて手にします! 」
「もぉー、そうじゃなくって、男の話よ、男」
「えっ? 」
「かぁー、その感じだとまだ未経験か」
「……はい」
「じゃ、アルドはまだ二人に手を出してないわけね」
「アッ、アルド君はそんな人じゃありません! 」
「お姉ちゃん、シィー、シィー! 」
「ごご、ごめんなさい」
◆ ◆ ◆
ん? 私の話題になっているのか?
少し気にならなくもないが、聞かれたら困るから小声で話しているのだろう。
頭に浮かぶそれらの事柄を、全て切り離し一度心を無にする。
そこで私は第一試験後である、昨晩の事を思い出していく。
しかしまさかとは思っていたが、リーヴェの魔力回路を調べると鉄板上が薄っすら紫色に発光をするとは。
あの光の色が意味するのは、リーヴェの魔力回路が数えて7番目、頭頂部に位置する全知全能の開花であるという証だ。
この魔力回路を持つ者は魔力操作に長けており、主となるその魔力回路の練度が上がれば精霊を直接具現化出来るレベルの精霊召喚も夢ではない、魔法使いのための魔力回路である。
精霊召喚、その属性の魔法を全て習得するだけでなく生まれ持った相性も兼ね備えていなくては使用が出来ない、選ばれた者だけが使える究極魔法。
仮に未熟な者が奇跡的に精霊召喚を発動出来たとしても、意のままに従わせるどころかその圧倒的な力を抑え込む事が出来ず、猛る精霊によって術者の精神は貪られてしまい最終的にはその身に精霊を受肉化、ただイタズラに現世へ厄災を振りまく魔獣と化してしまうだろう。
しかしリーヴェの魔力回路、鉄板上に現された形状も全知全能の開花を意味する重なり合う歯車だった。
リーヴェに精霊召喚はあまりにもハードルが高すぎる。
まさか魔力回路を調べて、今後の先行きが更に暗くなるとは。
……当初の予定通り、なるようになる、しかないのだろうか。
取り敢えず目先の心配をしよう。
それにもしかしたら、地道に鍛え上げていけば弓矢の扱いが長所と言えるぐらいにまで成長するかもしれない。
前を歩く三人を眺める。
三人は仲良さそうに、身を寄せ合うようにして会話をしている。
そうだ、なにも全ての冒険者が勇者パーティーにいた奴らみたいに超一流へなれる訳ではない。
彼女らは日々の生活を冒険者業で暮らしていけるだけの技術と経験を、これからじっくり学んでいけば良いのだ。
それに今からダンジョンへ潜るのだ。
これから仮に危機に瀕した際、考え事をしていて疲れてましたので回復魔法が使えませんでした、では済まされない。
私は歩きながらも肉体と精神を休ませるため、軽く瞑想を行なう事にした。
◆ ◆ ◆
エルちゃんに注意を受けて、少し落ち着いてきました。
それよりララ先生に説明をしないとです!
「ララ先生、アルド君はとても真面目なのです! 結構頑張って近づいたりしてるのですけど、真面目なので全く気付いている気配が感じられないのです! 」
「真面目ねぇー」
逡巡するララ先生に、エルちゃんが援護をしてくれます。
「しかもアルドさん、どうやら心の中では聖職者気取りみたいなので、例えエッチな場面があったとしても普通にスルーすると思います! 」
エルちゃんのフォローを受けて、ララ先生がこっそり後ろを確認します。
「確かに、なんだか悟った顔で歩いてるわね。ありゃ筋金入りだわ。
しかしガウェインを負かすくらい強くて回復魔法も使えるらしいのに、アルドは童貞野郎なのか」
どど、……童貞。
リーヴェでもその言葉の意味くらいならわかります。
たしか意味は、愛し合ったり子作りをしたことがない男の人。
アルドくんが愛し合ったり、ここ子作り……。
「しかしリリっちは、そんなアルドが良いと」
「えっ、はっ、……はぃ」
ただ『はい』と返事をするだけなのに、心が張り裂けそうなくらいいっぱいいっぱいで、うまく言葉が出てこないです。
「さてどう料理しようかな~。ちなみに参考までに、どこが良いのか教えて」
それなら沢山あります!
「とても優しくて、いつも気にかけてくれてて、リーヴェが間違ってたらそっと教えてくれて、困ってたら助けてくれてーー」
「あーオッケーオッケー、つまり優しいってことね。ほかには?」
えっ? あっ、たしかに全部優しいって意味でした。
でも優しい以外にも、カッコいいなーと思うこともあるですし、頼りになるなーとも思います。
でもこれらを思う時って、いつも良い匂いがするのです。
そうです、つまりこれをララ先生に言えば良いってことですね!
「なぜかは分からないのですけど、アルドくんはとても良い匂いがするのです」
「……えっ!? 」
まさかの出来事、ララ先生が固まってしまいました。
最後尾を歩いている私は前を歩く彼女らの左端、ララノアへチラリと視線を向ける。
ララノア=クライシス。
現役C級冒険者でギルド専任講師でもある彼女は、リーヴェと違い混じりっけなしのダークエルフ。
両親はアニマ教らしいのだが、彼女自身はそんな両親と決別、故郷を捨てて現在この街でエルグドルグ教に入っているらしい。
そのためなのか、生粋のダークエルフであるが、ハーフであるリーヴェに対して差別めいた視線は今のところしていない。
因みにリーヴェは父親がダークエルフ。
元々病弱だった母親を物心つく前に亡くしているリーヴェは、そんな父親と森の家で暮らしていた。
しかしある日、眼が覚めると幼い彼女を置いて父親は居なくなっていた。一人残された彼女は、食料の木の実が尽き森を彷徨っているところで奴隷商人に捕まってしまう。
リーヴェ自身は今も良く思っているようだが、幼い彼女を置いて姿をくらまし、その後10年もの間音沙汰なしの酷い父親だ。
リーヴェは用事があって戻って来られないと信じ込んているが、仮に父親探しをしたいと言いだしたら私は反対をするだろう。
そしてララノアは、そんなリーヴェの父親と同姓同名のダークエルフを知っていたのだが、そのダークエルフは半世紀前に亡くなった偉人だそうで、赤の他人と言う事が分かった。
しかしその父親の名前のおかげでリーヴェとララノアの距離がグッと近づき、リーヴェがおさがりの弓矢を貰うぐらいの仲にまで発展していた。
まぁララノアはエルとも気さくに話しているため、元々そういう人物なのかもしれないが。
ただやはりララノアが、リーヴェと同じ弓とナイフを扱うスタイルなのはかなり有難い。
弓矢、私はもちろん扱えないし、前世も含めて弓矢を扱う人間を間近で見た事すらない。そのためアドバイスなんて出来る訳がない。
手探りで紆余曲折しながらの独学より、先生がいて色々と教えてくれるのとでは、同じ時間を使っても上達に雲泥の差が出てしまう。
リーヴェはこれからの短い時間、食らいついてでもララノアから色々と教えて貰わないといけないのだが、まぁリーヴェもなんだかんだで真面目だから、そこは心配しなくて良いだろう。
「それじゃ、ターゲットの話に移りましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
そこから急にリーヴェとララノアの会話が小声になった。
どうやら秘密会議をするようだ。
◆ ◆ ◆
「ちなみにリリっちは、今までどれくらいの経験があるの? 」
「ナイフは狩りでウサギを少々、弓矢は初めて手にします! 」
「もぉー、そうじゃなくって、男の話よ、男」
「えっ? 」
「かぁー、その感じだとまだ未経験か」
「……はい」
「じゃ、アルドはまだ二人に手を出してないわけね」
「アッ、アルド君はそんな人じゃありません! 」
「お姉ちゃん、シィー、シィー! 」
「ごご、ごめんなさい」
◆ ◆ ◆
ん? 私の話題になっているのか?
少し気にならなくもないが、聞かれたら困るから小声で話しているのだろう。
頭に浮かぶそれらの事柄を、全て切り離し一度心を無にする。
そこで私は第一試験後である、昨晩の事を思い出していく。
しかしまさかとは思っていたが、リーヴェの魔力回路を調べると鉄板上が薄っすら紫色に発光をするとは。
あの光の色が意味するのは、リーヴェの魔力回路が数えて7番目、頭頂部に位置する全知全能の開花であるという証だ。
この魔力回路を持つ者は魔力操作に長けており、主となるその魔力回路の練度が上がれば精霊を直接具現化出来るレベルの精霊召喚も夢ではない、魔法使いのための魔力回路である。
精霊召喚、その属性の魔法を全て習得するだけでなく生まれ持った相性も兼ね備えていなくては使用が出来ない、選ばれた者だけが使える究極魔法。
仮に未熟な者が奇跡的に精霊召喚を発動出来たとしても、意のままに従わせるどころかその圧倒的な力を抑え込む事が出来ず、猛る精霊によって術者の精神は貪られてしまい最終的にはその身に精霊を受肉化、ただイタズラに現世へ厄災を振りまく魔獣と化してしまうだろう。
しかしリーヴェの魔力回路、鉄板上に現された形状も全知全能の開花を意味する重なり合う歯車だった。
リーヴェに精霊召喚はあまりにもハードルが高すぎる。
まさか魔力回路を調べて、今後の先行きが更に暗くなるとは。
……当初の予定通り、なるようになる、しかないのだろうか。
取り敢えず目先の心配をしよう。
それにもしかしたら、地道に鍛え上げていけば弓矢の扱いが長所と言えるぐらいにまで成長するかもしれない。
前を歩く三人を眺める。
三人は仲良さそうに、身を寄せ合うようにして会話をしている。
そうだ、なにも全ての冒険者が勇者パーティーにいた奴らみたいに超一流へなれる訳ではない。
彼女らは日々の生活を冒険者業で暮らしていけるだけの技術と経験を、これからじっくり学んでいけば良いのだ。
それに今からダンジョンへ潜るのだ。
これから仮に危機に瀕した際、考え事をしていて疲れてましたので回復魔法が使えませんでした、では済まされない。
私は歩きながらも肉体と精神を休ませるため、軽く瞑想を行なう事にした。
◆ ◆ ◆
エルちゃんに注意を受けて、少し落ち着いてきました。
それよりララ先生に説明をしないとです!
「ララ先生、アルド君はとても真面目なのです! 結構頑張って近づいたりしてるのですけど、真面目なので全く気付いている気配が感じられないのです! 」
「真面目ねぇー」
逡巡するララ先生に、エルちゃんが援護をしてくれます。
「しかもアルドさん、どうやら心の中では聖職者気取りみたいなので、例えエッチな場面があったとしても普通にスルーすると思います! 」
エルちゃんのフォローを受けて、ララ先生がこっそり後ろを確認します。
「確かに、なんだか悟った顔で歩いてるわね。ありゃ筋金入りだわ。
しかしガウェインを負かすくらい強くて回復魔法も使えるらしいのに、アルドは童貞野郎なのか」
どど、……童貞。
リーヴェでもその言葉の意味くらいならわかります。
たしか意味は、愛し合ったり子作りをしたことがない男の人。
アルドくんが愛し合ったり、ここ子作り……。
「しかしリリっちは、そんなアルドが良いと」
「えっ、はっ、……はぃ」
ただ『はい』と返事をするだけなのに、心が張り裂けそうなくらいいっぱいいっぱいで、うまく言葉が出てこないです。
「さてどう料理しようかな~。ちなみに参考までに、どこが良いのか教えて」
それなら沢山あります!
「とても優しくて、いつも気にかけてくれてて、リーヴェが間違ってたらそっと教えてくれて、困ってたら助けてくれてーー」
「あーオッケーオッケー、つまり優しいってことね。ほかには?」
えっ? あっ、たしかに全部優しいって意味でした。
でも優しい以外にも、カッコいいなーと思うこともあるですし、頼りになるなーとも思います。
でもこれらを思う時って、いつも良い匂いがするのです。
そうです、つまりこれをララ先生に言えば良いってことですね!
「なぜかは分からないのですけど、アルドくんはとても良い匂いがするのです」
「……えっ!? 」
まさかの出来事、ララ先生が固まってしまいました。
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