勇者パーティーの回復魔法師、転生しても回復魔法を極める! 〜只の勤勉で心配性な聖職者ですけど?〜

北河原 黒観

第18話、エルの魔力回路

 四匹の兎は私の粘りに粘った交渉の末、破格である銀貨五枚に変わった。まぁ、リーヴェの笑顔効果の後押しがあった事は間違いないがな。
 しかしこれだけあれば、三人分の軽い夕食と彼女たちが泊まる宿を一室確保出来る金額だな、とか思っていると——

「お嬢ちゃん、ちょっと良いかな? 」

 宿へと向かう途中、一人の行商人から声をかけられた。

「その薬草、ちょっと見せて貰えないかな? 」

 と言うことで、急遽その行商人に着いて行き広げた布の上に、リーヴェが採取していた葉っぱや根っこを鞄から取り出し並べていく事に。

「ほぉー、どれも使える薬草だ」

 片眼鏡を取り出した行商人は、リーヴェが並べる葉っぱや根っこをすぐさま手にして目線まで持ち上げると、角度を変えたりして品定めを次から次へとこなしていく。

 とそこで、行商人が時間をかけて一つの品を注視し出す。
 その目線の先には、どっからどう見ても雑草にしか見えない、なんという名か忘れたがお茶にして飲んだ例の草の束が握られていた。

 暫くうんうん唸っていたかと思っていると、盛大に息を吐いたのち片眼鏡を外しハンカチで汗を拭う。

「これを採ったのは、お嬢ちゃんなのかな? 」

「はい! 」

「いやー良い目をしているね。どれも本物のリョクチヤ草だ」

「本物と言う事は、リョクチヤ草って偽物が多いのですか? 」

「えぇ、一般の方には雑草と見分けがつかないからですね。だからちゃんと本物は市場に出回っていますけど、それと同じくらい偽物も出回ってますからね。
 しかも万能薬と称される程の効果がありますので、需要はかなり有ってですね」

 なるほど。

「ところで良かったらですけど、そのリョクチヤ草、私に買取させてもらえないでしょうか? 今なら少し色を付けさせて貰いますので」

 そして雑草にしか見えないリョクチヤ草の束が、大銀貨五枚と銀貨三枚に化けた。

「また沢山取れたら、是非私の所に持ってきて下さいね。週末はだいたいここら辺で荷物を広げてますので」

 そうして行商人と別れた私たちは、宿屋へ向かい歩き出す。

 しかし思わぬ臨時収入で、これからの生活がグッと楽になったな。それに冒険者になって資金に困ったとしても、リーヴェと森に入ればお金を稼げると言う事。

 おかげで精神的な余裕もだいぶ出てきた。
 リーヴェをチラリと見ると、のほほんとした顔で隣を歩いている。
 本当にリーヴェには、世話になりっぱなしだな。

 宿屋はリーヴェの薬草のお陰で男女一部屋づつ、計二部屋借りる事が出来た。そして夕食まで時間があったので、早速彼女たちの魔力回路の種類を調べるために必要な物を買いに、私は一人雑貨屋へ足を運ぶ。
 そこで購入したのは壺と鉄板、と私とリーヴェが着ている物に似た外套を一着。
 そして宿屋へ直帰した私は、まずは部屋にエルを招いた。

「アルドさん、今出かけたかと思ったら、もう帰って来たのですね」

「私は無駄な行動は極力しない性質だからな。それとこれを」

 先程買ったばかりの外套をエルに手渡す。

「えっ、これは? 」

「お前のだ。ギルドを訪れた時に周りから変に舐められないよう、それで私とリーヴェがしているように平民ぽい服装を隠すのだ。あとこの剣は、お前が持っていてくれ。私は素手でもなんとかなるからな」

「ありがとうございます。……ほんとアルドさんって、気配り上手ですよね」

「真顔でなんだ? 私は普通だよ。それより後がつかえている、早速だが始めるとするか」

「えーと、この鉄板の端を持って、深呼吸でしたっけ? 」

「あぁ」

 今エルの前には、置かれた壺の上に、蓋をするようにして買ってきた薄い鉄板が置かれている。その鉄板の上には、外から集めてきた砂を均等になるよう撒いてある。

 そこで私は、親指を立てる形であるグッジョブの形を右手で作ると、自身の丹田たんでんにその親指の先を触れる形で止める。

「まず丹田の場所から説明するが、だいたいヘソ下5センチ、表皮から体内へ向け5センチ進んだところにある。
 そして丹田にある魔力回路の回転方向は、この右手の親指以外の曲げた四本の指の向きと同じで反時計回り。
 さて、ここからが本題だ。
 深呼吸をしながらへその下の魔力回路が、1秒間に2回転するイメージをしてくれ」

 すると鉄板上の砂が振動をし始め、鉄板の真ん中が薄っすらと赤く発光する中、時間と共に形を成していく。

「わわっ、なんか凄いです! 」

「もう手を離して良いぞ。それで振動時に赤く発光したわけだが——」

 赤色に発光は身体の一番下に位置する第一魔力回路、生存維持本能ムーラベースが主である証。
 因みに1、3、6番目が主になっている魔力回路の持ち主は戦士向き。
 そして鉄板上に浮かび上がった模様で、大元となっている魔力回路から、全ての魔力回路が綺麗に繋がっている形は、理想の戦士向きの魔力回路の持ち主である。

 しかし変わった形だな。
 生存維持本能ムーラベースは左右対称になるのだが、エルの魔力回路は偏っていた。
 真ん中に大元の魔力回路があると、そこから右上と左上に次の魔力回路が来ている。そして左上の魔力回路だけがそこから更に残りの全て、四つが数珠繋ぎに並んでいた。
 数珠繋ぎで左右非対称は感覚鋭敏化アジナアイの魔力回路に見られる形。
 こんな魔力回路のパターンは初めて見るが、結果からして両方の特性を持っている事を現しているかもしれない。

「赤色だと、どうなんですか? 」

「エルは第一魔力回路が主になっているから、やはり戦士向きだな。これからは走り込みや筋トレのトレーニングを中心に、瞑想時は会陰えいん付近の魔力回路を回すイメージトレーニングを行なっていこう」

「えいん? 」

「会陰とは、せいしょ……」

 そう言えばエルは女の子であった。
 生殖器と肛門の間と言う説明は、あまりにも不適切だろう。

「会陰とは股ぐらの事だ。とにかくだ、股ぐら付近の魔力回路は身体の真下を向いているため、流れを先程の右手の親指を立てる形で表わすと、親指は上を向く。そうなるとつまり、他の指の向きから分かるように前面から左を回り後ろにいく流れになるな」

「えー、と言うか瞑想ですか? なんか面倒臭そうです」

「その時は私もアドバイスを行ないながら付き合うから、ブーブー言わない」

「はーい」

 そこでちょうどタイミングを見計らったかのようにしてドアがノックされる。

「アルドくん、いますか? 」

「あぁ、それと鍵は開いてるよ」

 扉がカチャリと僅かに開いた後、リーヴェがちょこんと顔を覗かせる。

「あっ、エルちゃん! まだ途中だったですか? 」

「わーい、お姉ちゃん」

 軽い感じでエルは意味もなくリーヴェに手を振っている。

「大丈夫だ、今ちょうど終わったところだ」

 そこでエルが、わざとらしくハッとした表情になる。

「それじゃ、お邪魔虫は退散しますねー」

 エルはウインクをしながらそう言うと、急いで退室をした。
 またエルの奴、なんか変な気を使ってるな。

「そっ、それではアルドくん、失礼します」

 そして入室してきたリーヴェは、室内と言うのに外套を羽織っていた。
 その格好に違和感はあるが、これは致し方ない事だろう。なんせエルが男だと思い込んでいたとは言え、私は女性の素肌にこれでもかっと言うぐらい触れるような事をし、その現場をリーヴェは見てしまっていたのだから。

 魔力回路を起動させるには、対象者の肌と魔力層の間に私の魔力を滑り込ませる必要がある。そのため着衣は邪魔でしかないが、自身が蒔いた種。

 ただ……なんなんだろうか、この感覚は?
 面と向かって警戒、すなわち拒否されていると分かると、私の心がモヤモヤとしていると言うか、——少し寂しく思う私がいる、だと?

 つまり元聖職者であるこの私が、女性、リーヴェに嫌われている事に対して、ショックを受けているという事、なのか?

「あの、アルドくん? 」

「あぁ、すまない。少し考え事をしてしまっていた」

 私は前世の時のように見返りを求めない。ただ私が行う善行により、私の手が届く人々の御心が救われれば、それが私の福禄ふくろくとなるのだ。
 今世でも、無償の愛を持ち続けるのだ。

「早速だが、始めるか」

「あっ、ちょっと待って下さいです」

 気を引き締めリーヴェの背後にまわり込もうとすると、待ったがかかった。そしてリーヴェは、羽織っている外套を脱ぎ始めた。

 そっ、そうだよな、流石に外套を着たままでは上手く出来ないからな。

 そして外套が取り払われて露わになったのは、フリルが付いた可愛らしい寝巻きに身を包むリーヴェの姿であった。
 この寝巻き、肌着のように薄い生地のようだ。しかも下はカボチャパンツなのだが、丈が短いため水を弾きそうな張りがあり綺麗な茶褐色の太腿が丸見えになってしまっている。

 そんな姿のリーヴェは、鎖骨や胸部分にかかるキラキラと輝く長髪に指をクルクル絡ませ、俯きながらも時折見上げるようにしてこちらをチラチラ見ている。

 古くからの馴染みだし、今まで異性として見ないようにしていたが——

 改まって見てみると、全体を包み込む雰囲気は可愛らしいのだが、見る箇所を絞って良く良く見れば、大人らしい魅力が香る身体つきである。

 と言うか、リーヴェは私を警戒しているのではなかったのか?
 いや、逆にこのような露出はごく一般的なもので、喫驚きっきょうしてしまっている私が異端なのか?

「そんなに見つめられると、……恥ずかしいです」

「すっ、すまない」

 ——私は、何を考えてしまっているのだ?
 落ち着かせるのだ、心を落ち着かせるのだ。
 めめ、瞑想だ——

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