勇者パーティーの回復魔法師、転生しても回復魔法を極める! 〜只の勤勉で心配性な聖職者ですけど?〜
第5話、卑劣な何でも屋ガルム①
◆ ◆ ◆
手元のマッチに火を付ける。
今にも雨が降り出しそうな、しけた天気。
そんなんだから、店内だと言うのに暗くって昼間っからランプを必要としている。
酒場の一角。視線を手元から正面に戻す。丸テーブルの対面に座るフードで顔を隠している依頼人が、金の入った袋を置いて席を立った。
その後ろ姿を眺めながら、咥えた煙草にマッチの火をつけてふかす。
「兄貴、あの怪しい旦那はなんだったんですかい? 」
依頼人が店から出て行くと、人払いをしていたテーブルに弟のダガムと子分のコザが戻って来た。
「仕事だ、裏のな」
俺ら三人は、フーゴの町で何でも屋をやっている。
この小さな町はダンジョンから遠く、ギギの森に埋没しているような辺鄙な場所にある事もあって、警備の騎士はもちろんここを拠点にしている冒険者もいねぇ。
そのため俺たちがギギの森を走るここらの街道を歩く商人たちの護衛として働く事があるが、ぶっちゃけここらの町々で一番の悪は俺たちだ。
だから俺たちに金を握らせ同行さえさせとけば、商人たちは安心して仕事が出来るってわけだ。
ちなみに俺たちの裏の仕事、目を付けられない程度に街道を行き来する旅人や商人を襲う山賊業をやっている他に、ごくたまにだが殺人の代行業もやっている。
まぁー殺人代行の殆どが町を出たターゲットを殺るわけだから、山賊業と対して変わりねぇが。
「それでガルムの兄貴、どんな内容なんすか? 」
コザの質問に、袋の中の硬貨を数えながら答える。
「バーバラの町のアルドって名の若造が、今日から宅配屋で働いているらしい。そいつを一週間以内に殺ってくれってよ。
……前金の三百ギル、大銀貨三枚あるな。
後金は六百ギル。一人の取り分は三百だ」
「どうします? 」
「さっそくだが明日やるぞ。それとハーフダークエルフの小娘がいるらしいが、そいつは殺すなよ。楽しんだあと、依頼主に売り飛ばす手はずだからな」
◆
昨日とは打って変わり、空は雲ひとつねぇ晴天だ。
そして仕事に熱心な俺たちは、まだ昼前だというのに街道近くの茂みに身を隠している。
俺たちが拠点にするフーゴの町は、深い森に囲まれた場所にある。そしてこの町を迂回すると他の町への距離が跳ね上がるため、ここらを旅する商人たちは必ずこの町を経由している。
だから森を走る街道はところによって狭い箇所があるが、そこそこ人通りはある。ただ道は巨木などの木々を避けて作られているため紆余曲折しており、少し離れちまうと前を歩く人間の姿は見えなくなる。
つまり死角だらけ。後ろを歩いていた人間が見えなくなっても、誰も不思議に思わねぇ。
「兄貴、俺の勝ちだ」
手元から見上げれば、口角を釣り上げたダガムが手札のカードを見えるようにして地面にばら撒いた。
「ちっ、しけてやがる」
考え事をしていたため、女を先に楽しむ順番を決めるカードゲームに負けちまった。
まぁいい、巷の噂ではダークエルフは締まりがいいっていうから、ダガムの後でもたんまり楽しめるはず。
「ガルムの兄貴、ダガムの兄貴、例のやつらが来やした! 」
見張りをさせてたコザが、草を掻き分け戻って来た。そして案内をするコザの後を進んでいくと、鬱蒼と生い茂る草木の間からターゲットの姿を確認する。
配達屋が支給している帽子と服に、大きめのショルダーバック。そして手紙を運んでいる証である銅のプレートを杖の先に付けている男と、同じ格好で褐色の肌に金にも銀にも見える綺麗な髪の耳が尖った女。
こいつらで間違いない。
しかしたまげたな、あのハーフ。少し若いがこいつは上玉だぜ。
だがその事実が、カードゲームに負けた事を後悔させる。
とにかく……ん?
男の特徴の一つに上がっている、首に付いているはずの首輪の跡が見当たらねぇな。
まぁ、依頼主の勘違いかなにかだろうが、仮に別人でもこちらはもうやる気満々だぜ。
恨むなら、お前が信じる神を恨みな。
そして号令の元、日が陰る街道を進む奴らの正面に俺とコザ、そして背後にダガムが姿を現す。
「やぁ、アルド、元気にやっているか? 」
「なんですか、あなた達は?
……まぁいい、それよりなんで私の名前を知っている? 」
ん?
若造の口調が途中から変わった?
まぁ、このさい口の聞き方なんてどうだっていい。
「ははっ、質問が多すぎだぜ? それより急用の話があるんだが、にぃちゃんだけこっちに来て、くんねぇかなぁ! 」
すぐにぶち殺してやるからよ!
不意打ちざまに腰の剣を抜き放つと、そのまま若造に向かって振り下ろす。
が、捉えたと思った剣先は空を切った。
ちっ、すばしっこいじゃねぇか!
しかし腹を裂いたと思った次の一撃も、ヒラリと躱されてしまう。
ど、どうなってやがる!
ただの若造じゃねぇのか!?
「おい、お前らもさっさと抜かねぇか! 」
俺の指示で遅れて獲物を手にする二人にイラついていると、若造が女に向かって手を伸ばした。
「リーヴェ、少し離れてて」
「はい! 」
そこで女が木陰に身を隠したもんだから、逃がすかと思ってコザに目配せを行なっていると、若造から放たれる殺気に気がつく。
……なんだこいつの目。ビビってないどころか、若造のくせにえらく目が据わってやがる。
「とりあえず、あんたが色々と知っていそうだな」
俺に向かって若造がそう言ったのち、猛スピードでこちらに向かって——って、ふざけんな!
俺の渾身の一撃!
奴の上半身に向け放った俺の横薙ぎ!
それを咄嗟に出てしまったのか、若造は素手なのにまるで盾でも持っているかのようにして腕を曲げて受け止める!
やった直撃だ!
それにこの感触、こりゃ骨までたっしぃぐがあっ!?
突然右の膝小僧に衝撃を受け、激痛が走る。
なっ、脚が!
見れば俺の脚が、奴が出していた前蹴りにより曲がってはいけない方向、真逆に曲がってやがる!?
衝撃と激痛に思わずその場にケツを付いちまう中、コザが若造に向かって行くのが見えた。
しかしコザががむしゃらに振り下ろそうとした剣が、途中で止まってしまう。なんとメチャメチャな早さで飛び込んだ奴が、傷ついた左手でコザの手首を握って止めたからだ!
そしてそこからは一瞬であった。
若造は片手で受け止めたまま更に一歩踏み込むと、突き出した右手でコザの頭部を無造作に鷲掴み。
すると白目を開けたコザは、目と口を大きく開けたままその場に崩れ落ちる。
「がぁぁああ! 」
雄叫びを上げながら、両手で剣を振り上げたダガムが背後から若造に斬りかかる!
しかしそれを素手なのにまた盾を持っているかのようにして、今度は右腕のほうで受け止めようとする。
『ザスッ』
んなっ、俺の見間違いか!?
俺より力があるダガムの攻撃は、奴の腕を数ミリぐらいしか斬ってない所で止まっちまっているように見える!
と言うかどうなってやがる!?
生身の腕で、剣が防がれているだと!?
「聖魔法防御のほうは有効か」
若造がそう述べたあと、瞬時に右ストレートが繰り出されていた。
それが上から振り下ろそうとしていたダガムの左肘に直撃。そのため剣を握りこんでいた左手が無理やり剥がされ、関節部分から真下へプランと揺れる。そして痛みに縮こまり完全に動きが止まってしまったダガムの両膝に、奴の前蹴りが決まっていく。
「ぐぎゃあぁぁー」
前のめりに倒れたダガムは、口を大きく開け痛みにもがき苦しむ。
「取り敢えずあんたは保険だから、逃げないように右腕も貰う」
更に上がるダガムの悲痛な叫び。無造作に蹴られ右腕も折られちまった。そのため地面に伏すダガムは、身体から伸びる四肢の全てが歪な方向に曲がっちまっていた。
手元のマッチに火を付ける。
今にも雨が降り出しそうな、しけた天気。
そんなんだから、店内だと言うのに暗くって昼間っからランプを必要としている。
酒場の一角。視線を手元から正面に戻す。丸テーブルの対面に座るフードで顔を隠している依頼人が、金の入った袋を置いて席を立った。
その後ろ姿を眺めながら、咥えた煙草にマッチの火をつけてふかす。
「兄貴、あの怪しい旦那はなんだったんですかい? 」
依頼人が店から出て行くと、人払いをしていたテーブルに弟のダガムと子分のコザが戻って来た。
「仕事だ、裏のな」
俺ら三人は、フーゴの町で何でも屋をやっている。
この小さな町はダンジョンから遠く、ギギの森に埋没しているような辺鄙な場所にある事もあって、警備の騎士はもちろんここを拠点にしている冒険者もいねぇ。
そのため俺たちがギギの森を走るここらの街道を歩く商人たちの護衛として働く事があるが、ぶっちゃけここらの町々で一番の悪は俺たちだ。
だから俺たちに金を握らせ同行さえさせとけば、商人たちは安心して仕事が出来るってわけだ。
ちなみに俺たちの裏の仕事、目を付けられない程度に街道を行き来する旅人や商人を襲う山賊業をやっている他に、ごくたまにだが殺人の代行業もやっている。
まぁー殺人代行の殆どが町を出たターゲットを殺るわけだから、山賊業と対して変わりねぇが。
「それでガルムの兄貴、どんな内容なんすか? 」
コザの質問に、袋の中の硬貨を数えながら答える。
「バーバラの町のアルドって名の若造が、今日から宅配屋で働いているらしい。そいつを一週間以内に殺ってくれってよ。
……前金の三百ギル、大銀貨三枚あるな。
後金は六百ギル。一人の取り分は三百だ」
「どうします? 」
「さっそくだが明日やるぞ。それとハーフダークエルフの小娘がいるらしいが、そいつは殺すなよ。楽しんだあと、依頼主に売り飛ばす手はずだからな」
◆
昨日とは打って変わり、空は雲ひとつねぇ晴天だ。
そして仕事に熱心な俺たちは、まだ昼前だというのに街道近くの茂みに身を隠している。
俺たちが拠点にするフーゴの町は、深い森に囲まれた場所にある。そしてこの町を迂回すると他の町への距離が跳ね上がるため、ここらを旅する商人たちは必ずこの町を経由している。
だから森を走る街道はところによって狭い箇所があるが、そこそこ人通りはある。ただ道は巨木などの木々を避けて作られているため紆余曲折しており、少し離れちまうと前を歩く人間の姿は見えなくなる。
つまり死角だらけ。後ろを歩いていた人間が見えなくなっても、誰も不思議に思わねぇ。
「兄貴、俺の勝ちだ」
手元から見上げれば、口角を釣り上げたダガムが手札のカードを見えるようにして地面にばら撒いた。
「ちっ、しけてやがる」
考え事をしていたため、女を先に楽しむ順番を決めるカードゲームに負けちまった。
まぁいい、巷の噂ではダークエルフは締まりがいいっていうから、ダガムの後でもたんまり楽しめるはず。
「ガルムの兄貴、ダガムの兄貴、例のやつらが来やした! 」
見張りをさせてたコザが、草を掻き分け戻って来た。そして案内をするコザの後を進んでいくと、鬱蒼と生い茂る草木の間からターゲットの姿を確認する。
配達屋が支給している帽子と服に、大きめのショルダーバック。そして手紙を運んでいる証である銅のプレートを杖の先に付けている男と、同じ格好で褐色の肌に金にも銀にも見える綺麗な髪の耳が尖った女。
こいつらで間違いない。
しかしたまげたな、あのハーフ。少し若いがこいつは上玉だぜ。
だがその事実が、カードゲームに負けた事を後悔させる。
とにかく……ん?
男の特徴の一つに上がっている、首に付いているはずの首輪の跡が見当たらねぇな。
まぁ、依頼主の勘違いかなにかだろうが、仮に別人でもこちらはもうやる気満々だぜ。
恨むなら、お前が信じる神を恨みな。
そして号令の元、日が陰る街道を進む奴らの正面に俺とコザ、そして背後にダガムが姿を現す。
「やぁ、アルド、元気にやっているか? 」
「なんですか、あなた達は?
……まぁいい、それよりなんで私の名前を知っている? 」
ん?
若造の口調が途中から変わった?
まぁ、このさい口の聞き方なんてどうだっていい。
「ははっ、質問が多すぎだぜ? それより急用の話があるんだが、にぃちゃんだけこっちに来て、くんねぇかなぁ! 」
すぐにぶち殺してやるからよ!
不意打ちざまに腰の剣を抜き放つと、そのまま若造に向かって振り下ろす。
が、捉えたと思った剣先は空を切った。
ちっ、すばしっこいじゃねぇか!
しかし腹を裂いたと思った次の一撃も、ヒラリと躱されてしまう。
ど、どうなってやがる!
ただの若造じゃねぇのか!?
「おい、お前らもさっさと抜かねぇか! 」
俺の指示で遅れて獲物を手にする二人にイラついていると、若造が女に向かって手を伸ばした。
「リーヴェ、少し離れてて」
「はい! 」
そこで女が木陰に身を隠したもんだから、逃がすかと思ってコザに目配せを行なっていると、若造から放たれる殺気に気がつく。
……なんだこいつの目。ビビってないどころか、若造のくせにえらく目が据わってやがる。
「とりあえず、あんたが色々と知っていそうだな」
俺に向かって若造がそう言ったのち、猛スピードでこちらに向かって——って、ふざけんな!
俺の渾身の一撃!
奴の上半身に向け放った俺の横薙ぎ!
それを咄嗟に出てしまったのか、若造は素手なのにまるで盾でも持っているかのようにして腕を曲げて受け止める!
やった直撃だ!
それにこの感触、こりゃ骨までたっしぃぐがあっ!?
突然右の膝小僧に衝撃を受け、激痛が走る。
なっ、脚が!
見れば俺の脚が、奴が出していた前蹴りにより曲がってはいけない方向、真逆に曲がってやがる!?
衝撃と激痛に思わずその場にケツを付いちまう中、コザが若造に向かって行くのが見えた。
しかしコザががむしゃらに振り下ろそうとした剣が、途中で止まってしまう。なんとメチャメチャな早さで飛び込んだ奴が、傷ついた左手でコザの手首を握って止めたからだ!
そしてそこからは一瞬であった。
若造は片手で受け止めたまま更に一歩踏み込むと、突き出した右手でコザの頭部を無造作に鷲掴み。
すると白目を開けたコザは、目と口を大きく開けたままその場に崩れ落ちる。
「がぁぁああ! 」
雄叫びを上げながら、両手で剣を振り上げたダガムが背後から若造に斬りかかる!
しかしそれを素手なのにまた盾を持っているかのようにして、今度は右腕のほうで受け止めようとする。
『ザスッ』
んなっ、俺の見間違いか!?
俺より力があるダガムの攻撃は、奴の腕を数ミリぐらいしか斬ってない所で止まっちまっているように見える!
と言うかどうなってやがる!?
生身の腕で、剣が防がれているだと!?
「聖魔法防御のほうは有効か」
若造がそう述べたあと、瞬時に右ストレートが繰り出されていた。
それが上から振り下ろそうとしていたダガムの左肘に直撃。そのため剣を握りこんでいた左手が無理やり剥がされ、関節部分から真下へプランと揺れる。そして痛みに縮こまり完全に動きが止まってしまったダガムの両膝に、奴の前蹴りが決まっていく。
「ぐぎゃあぁぁー」
前のめりに倒れたダガムは、口を大きく開け痛みにもがき苦しむ。
「取り敢えずあんたは保険だから、逃げないように右腕も貰う」
更に上がるダガムの悲痛な叫び。無造作に蹴られ右腕も折られちまった。そのため地面に伏すダガムは、身体から伸びる四肢の全てが歪な方向に曲がっちまっていた。
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