「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

173

 香川教授も田中先生も同性しか愛せないという自覚症状が有ったようだった。
 俺も当時はこの人にそういう自覚が有るのかもしれないな……と思っていじらしい恋心からアタックした。
 だいたいそう言うのは早い時は幼稚園児とかで漠然と感じてしまうものだが。
 〇〇子ちゃんが好きとか子供らしい無邪気さで思っているのが幼稚園児だと思うが、その時に〇〇君に目が行ってしまうとかで。
 その後も、早い人間は小学校の時に第二次性徴の時には「おかしいな」と思うのが普通だ。
 何しろムラムラする相手が同性で、女性には全くそういう気分にならないのだから。
 田中先生が限りなく愛おしさを込めて大切にしている香川教授だって――なんでも政略結婚の相手がいたそうだが、その病院長先生の御嬢さんのボーイフレンドとの夜遊びのドライブ!が原因で亡くなったと聞いている。
 俺が直接聞いたわけではないが恋人が教えてくれた。
 ただ、香川教授のご家庭はお世辞にも裕福だとか恵まれたとかいうモノではなかったようで、そしてそのちっぽけな病院長が跡継ぎ候補として医学部に入れるほどの成績を取っていた香川教授に目を付けたらしい。
 まあ、わが日本が誇る国技の相撲の世界でもそうなのだが、有名な横綱の息子が必ずしも相撲を取るのが上手とはいえない現実もあって、ご令嬢に将来有望な力士に娘を結婚させるといったことは良く聞く。
 そういうのは相撲の世界だけではなくて、俺のようなしょぼすぎる――と言ったら姉にも父母、そして祖父母まで激怒しかねないので黙っているが――街のクリニックでもそうだ。まあ、俺は厚労省に入省というコペルニクス的な発想の転換で逃げたが。それが総合病院(香川教授はハッキリとは言わなかったものの、何でも心臓病のお母様の入院先の病院という話は断片的に聞いているらしい)それなら、婚約者が居てもボーイフレンドと遊びに行くような「みれくれだけのバカ女」を学費を出してもらう代わりに結婚させるというのも首肯できる話だ。そもそも医学部は忙しいので呑気にドライブとかは無理だし、婚約者と言っても当時は大学生になったかならないかという時期の話しだろう。
 香川教授も自分の性的嗜好に気が付いていたらしいが、律義で几帳面な人なだけに「学費を出してくれた」という大恩のある病院の院長に恩返しをしようとしていたのだろう。
 まあ、そのご令嬢だか何だか知らないがその人に男の象徴が反応するのは甚だ疑問だったが。
 すると。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品