「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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「だったらさ、お父さんがハゲていたってコトも充分考えられるだろ?100キロ超えの男に組み敷かれるのはオレ的には無理だけどさ……。そういうのが好きな人っていうのは否定しない。
 けど、100キロ超えよかハゲのお父さんの方が普通に居そうだろ?
 ウチの病院でも――まあ、肉体労働という側面もあるし、運動不足な人間は余り居ないからかもしれないが――そういう体重超過よりもハゲてる人の方が圧倒的に多いと思う」
 ハゲとかデブのことを真剣に議論しているっぽい俺の恋人のことは本当に愛おしく思う。
 美樹と会って、その成金趣味とかお金についての――まあ、ライター代は美樹には関係ないが――「趣味の悪さ」に当てられたのかもしれない。
 その点、俺の恋人はそういう毒気とは全く無縁だったし、その上自分達に関係ない――と信じたい!太ることは一応気にしているし、メタボリック・シンドロームに省を上げて取り組んでいる組織の一員がそういう体型になることは職務上かなりマズい。まあ、見た目が太目だからといってメタボリックというわけではないが、そんな計測値よりも、パッと見で判断されるのが世の常だ。だから気を付けてはいる。しかし、毛髪状態の件はどうしようもないし、そう言えば祖父も父もかなり進行しているような気がする。遺伝だけで決まるわけではないが、遺伝子情報では毛髪が抜けるような悪寒がするのも厳然たる事実だった――とにかく今の時点では大丈夫な話を交わしていると何だか乾いた心の中に恵みの雨が降ってきたような気がする。
 俺の精神状態を読んでのコトなのかもしれないが、何だかこういう恋人が居るのは本当に有り難いと思った。
 喜怒哀楽がかなりはっきりしている俺の恋人だが、今は癒しモードなのかもしれない。
「そうですね……言われてみれば確かに……。そんなことを考えたこともないですが意外な発想ですね。
 ハゲについて女性が忌避の対象になるのは『初恋の人がハゲていなかったからだ』とかいうエッセーを読んで慧眼けいがんに感心した覚えが有るのですが、『初恋の人が太っている』ということは無きにしも非ずといった感じです。ま、スレンダーな身体の方がモテるとは思いますが」
 俺の恋人は華奢な指を顎に当てて考えているようだった。
「まあ、オレの小学校時代からクラスでモテるのは確かにすらっとしたイケメンと決まっていたからな……。そして」
 

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