「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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「そうだろうな……。ほら、一緒に観ている『鬼平犯科帳』だってさ、長谷川平蔵がお金に苦心してるもんな……。密偵とかバンバン使いまくって、さ。
 いつの回だったかは忘れたけど、鬼平って400石取りの旗本だったっけ?その辺の数字は曖昧だけどさ。
 その当時では割とお金持ちだったし、特権階級だろ?旗本って。それでももっと上の人の相談事を無理やり頼まれてさ、結局はその上の人が悪いってなった時に『表沙汰にするのは止めて欲しい。その代りに金子きんすだったか小判だったかを受け取っているよな?
 今じゃ賄賂わいろで警察に捕まりそうだけど、あの時代だから良いんだろ?
 それに自分が贅沢もせずに、しかも家に伝わっている高価なモノをみんな質屋さんに入れて火つけとか盗賊を捕まえているもんな。
 『鬼平犯科帳』を観てたらお金が掛かるのはオレだって分かるから、オレの誕生日やクリスマスプレゼント用のお金はそっちに回してくれ。
 病院の至宝としてとか看板教授だからって言うのもあるけどさ、香川教授は本当に熱心で、しかも真摯かつストイックに患者さんと向き合っているだろう?
 それに性格的にも良い人だし。
 ほら、なまじ『病院の至宝』とか言われちゃうと、天狗になる人間も多いもんな……。
 『至宝』とか言われなくて、陰では『あの時代錯誤のバカ家長』とか『ゴリゴリの父権主義者パターナリスト』とか呼ばれている真殿のバカ殿様も天狗どころか物凄くいい気になってのさばっているだろ?
 ああいうヤツなら――ああ、歳とか外見で相手にされないか――オレの誕生日やクリスマスプレゼントを優先させて欲しいって思うけど、香川教授のためならそれらのために計上していた予算を全部使い切っても良い。オレが許すので、存分にお金も撒いてくれ。
 井藤とやらも真殿のおっさんをターゲットにしてくれたら良いのにな……。
 年とか外見がダメって今さっき言ったけどさ、こういうマイノリティな嗜好を持つ人間は変わった好みを持っている人も多いって聞いたぞ?
 たとえば体重が100キロ超えしか恋愛対象にならないとか、年齢は行っている方が良いとか。
 そういう特殊な好みもあるんだろ?
 それに比べて女性は痩せたイケメン――病院一と評判なのが田中先生だけど……に圧倒的な好意が集まっているもんな。
 100キロ超えの人間とかハゲ散らかした小父さんとかお爺さんなんて相手にされないもんな」
  そして。

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