「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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「そういう場所」に行ったら100%下心有り有りの声が掛かるだろう香川教授があんなウブな女子高生もビックリの反応するとは思ってもいなかった。洒落た大人の上手な、かわし方すら知らないと言った趣きは俺の好感度を高めるのに充分だったのも確かだったし、あの庇護欲がそれ程無いよう感じの田中先生が全力で守るという決意をするのも頷ける話だった。俺の恋人に対しても俺に対しても物凄く気を使っている感じだったし、井藤に対しては毛を逆立てた猫科の動物をーー例えばライオンとかトラといった趣きだった。実際にそうなった大型動物を見たことはないがーー彷彿とさせていたというのが、俺と恋人の共通見解だったし。
「おい、オレの話しをキチンと聞いているか?」
 俺が世界一大切な人が香り高いコーヒーの湯気を頬に当てて、可憐な唇をほのかに釣り上げている。
「え?聞いています。お金がどうとかおっしゃっていましたよね?」
 すると恋人は立てた人差し指で空間を切り裂くような仕草をした。華奢な指もコーヒーカップの熱を浴びたせいか、ごく薄い紅色に染まって綺麗で、思わず見惚れてしまう。
「お金もさ、あの研修医の対策で色々と物入りだろう?
 お前が税金の無駄使いを極力省いているのも知っているし。だから持ち出し分が増えるのも当たり前だと思う。
 警察はさ、犯罪予防にそう熱心でないのも週刊誌で読んだ覚えがあるし、しかも女性のストーカー被害でもなかなか警察は動いてくれないってネットで見たこともあるし、さ。
 綺麗な女性ですらーーまあ、ストーキングする男が悪いのは当たり前なんだけど、さーーなかなかまともに取り合ってくれないらしいんで、香川教授のケースなんて絶対にムリだと素人目でも分かる。何といっても、教授は男性なので、よりハードルが高いんだろ?」
 流石は俺の恋人だ!と思ってしまうが、まあそれは多分贔屓目ひいきめで、社会常識を持った人間は普通にそう判断するだろう。
 同性愛者はマイノリティなのも確かだーーウチの省でもパブリックコメントとかアンケートを募ったりして実数把握に努めてはいる。しかし、そういう匿名とはいえ「公の場所」でもカミングアウトしにくいという空気があるのも事実なので実数は把握出来ていない。
「それはそうですね。だから持ち出し分というか、こちらが身銭を切ることも多いです、正直なところ」
 すると。

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