「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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「お金だってさ……」
 薫り高いコーヒーの湯気をスミレの花のような頬に当てながら俺の恋人は可憐な唇を開いた。
 香川教授のような――そして美樹が死ぬほど憧れてわざわざ顔を作った顔、いくらくらい美容整形につぎ込んだのかは知らないが最低でもウン100万円もしかしたら桁がもう一個増えるかもしれない金額――大輪の薔薇とかカトレアのような佇まいの顔も悪くはないがずっと愛することは出来ない。まあ、美樹のような作り物だと興ざめだが、香川教授のような人は一回味見をしてみたくなったことも事実だった。
 それにコッチの世界で、あの綺麗な顔とかしなやかな肢体は――美樹が何が何でも、それこそ美容整形の術後の痛みとかにまで耐えたり、なけなしのお金を全部つぎ込んだりしてまで渇望したシロモノだ――物凄くモテるだろう。
 まあ、実際のところ俺の恋人だって俺のテリトリーに一歩入れば店にいる男性の目を強く惹きつけるだろうが、そんな危ないことはコレッポッチもしたくないしする積りは全くない。田中先生は多少見せびらかし願望が有りそうな人でもあったが――まあ、あれほどのレベルの外見の持ち主を恋人にしているのだからその気持ちは分からなくもない――俺はあいにく持ち合わせていない。
 ただ、香川教授と一度だけ二人きりで会ったことは有る。
 美樹のような奔放さは望むべくもない――そして俺には全く食指が動かない。何故なら精神の軽薄さというか人間の中身の薄っぺらさが鼻につくからだ――人ではあるものの、こういう少数派の嗜好の持ち主は「そういう意味での」奔放さは持ち合わせているし、一度くらいは味見というかお手合わせはしたかったのも事実だtった。お互い恋人がいるのは承知の上で割り切った大人の一晩だけの付き合いとでもいうのだろうか。
 その誘いを言った時の香川教授の反応は今思い出しても噴飯モノ、もとい物凄く新鮮だった。
 鳩が豆鉄砲を食らったというか、日本語ではない別の――しかも博識過ぎる香川教授が聞いたこともないような異国語で――イキナリ話しかけられたみたいな。
 確かに香川教授が大輪の花のような雰囲気を持っているので、さぞかしモテるだろうとは思ってはいた。
 今の恋人は田中先生で、その恋人しか眼中にないといった感じだったものの、過去の遍歴とかはかなり有ったに違いないと思っていたので。だからスマートな断り方をすると勝手に思い込んでいた。
 しかし。

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