「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 このお金は一存で税金を投入するわけにはいかないな……と思って内心ため息をついた。
 ただ「大学教授」に相応しい恰好を心がけている感じの香川教授だし、その上田中先生が「プレゼント」をするーーその辺りは妙なところでケチな点もある田中先生でも恋人の矜持にかけても絶対に「それなりの」金額のモノを贈っているーー品物だけにブランド物が怪しまれないだろう。
 俺が見ている限りでは、香川教授なら田中先生から貰ったモノなら何でも喜びそうな性格だ。
 その点、美樹とは全く異なる価値観の持ち主だろうと踏んでいる。まあそういう為人ひととなりだからこそ、こうやって肩入れしたくなるのだが。
「マックスまで公費を使うとして、その差額は此方こちらが責任を持って支払うので、その店で買って来て貰えませんか?」
 まあ、俺はそこそこ良い年収は貰っている上に可愛がってくれる祖母も居る。東京の実家にはほとんど寄り付かないが、祖父母宅には時々行っているという事情も有る。こう言ったら何だが、俺は高齢者にウケが良いという利点を生かして巨額なーーだと世間の常識から見たら考えられるだろうーー生前贈与を受けている身の上だし。
『承りました。ではそのように致します。夜分に失礼しました』
 今日一日の「散財」の額を思うと何だか懐がヒンヤリと痛んで仕方ないものの、仕方ないといえばそうだ。必要経費として割り切ったほうがいいだろう。
「お疲れ様……。いろいろ大変だろうな。ただ、精神疾患のある人間が相手だし、そういうのってあの田中先生でも何だか対応に困っているみたいだったしさ……。まあ、可視化の可能な外科と異なってまだまだ未知の領域も多い精神科なので、戸惑うのも分からないでもないけど、さ。
 そういう点でも、この事件にお前が必要かつ重要人物なので頑張ってくれ」
 珈琲コーヒーの物凄く良い香りのカップが目の前に置かれた。
 恋人の熱い激励に頑張ろうと思えて来るのだから我ながら現金だったが。
「有難うございます。とにかく使えそうな手は全て打ちます。
 多少のお金を使う価値はあると思います。まあ、本当は『俺の』恋人に使いたいお金でしたが……」
 そう言うとスミレの花のような可憐な笑みを浮かべた恋人が唇を花のように開いた。
 そして。

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