「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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「同じ専攻だし、分かっていると思っていた。
 だから、思わずカッとなってしまってゴメン。それにもっときちんと伝えなかったのもオレのミスだし。
 そして、井藤が――あんな性格の人間だし、ほら、田中先生のトコの研修医……名前忘れた……、ま、名前はどうでも良いか。所詮は符牒みたいなものだから。
 オレだって食堂にたまに行くと『クレーム外来がさぁ」とか言われているのを耳にすることもある。
 病院長の指示で各科の患者さんの不定愁訴を延々と聞いて、その内容が患者さんの言いがかりだったり、入院中ってさ、それなりのストレスもたまるだろう?だからそのせいで攻撃的になって医師やナースの些細なミス……ヒヤリハットまでは全然到達しないだろう件とかそういうのはキチンと分けて、病院側が明らかに悪いと判断されるケースは報告している。
 病院長直々の指示だったし、オレにはあの小さい城を守らないといけないので。
 本当なら真殿教授と盛大なケンカをした場合、どこか僻地の精神病院か公立病院に左遷覚悟だったのを病院長が仲裁に入ってくれて、その上不定愁訴外来というブランチの設立許可が下りたのも鶴の一声だったと聞いている。
 地獄耳の田中先生も知らなかったみたいだけどさ、やっぱりウワサの種はタンポポの綿毛のようにフワフワと飛んで行ってしまっているらしく『チクリ屋』とかさ、酷い科になると病院内の『ゲシュタボ』と思っているらしいし。
 だからオレの苗字をもじって物凄く嫌そうな感じで『クレーム外来』って言われてる。
 オレが『なんですか?お話なら聞きますし、悩み相談も受け付けますよ』って話しかけたら、とんでもないとばかりに手を振られてさ。
「『呉外来』って言った積りです。
 ほら、心臓外科だって香川外科と呼ばれているでしょう。あれと同じで、いわば尊称です。私の発音が悪かったので誤解を生じさせてしまってすみません」
 とかシレっと言い返される。
 ゲシュタボとはあまりにも酷いなと思ってしまう。
 あれは、ナチスドイツの秘密警察だが、超法規的措置としてユダヤ人がテロを企んだとかのでっち上げでユダヤ人を殺害したりそう言った「汚れ仕事」もしていた組織だと大学の一般教養課程で習った覚えが有る。
 しかし。

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