「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 物凄く楽しそうな俺の恋人と香川教授が大きな皿にケーキを山盛りにして席に戻ってきていそいそとした感じで食べているのを、内心胸焼けを起こしそうな気分ではいたものの、俺の恋人の無邪気な喜びに満ちた顔とか香川教授のしなやかな白くて長い指が――後で知ったが、田中先生がまず惹かれたのはアメリカでの手技の画像で、その手術用の手袋に包まれた指だったらしいが、それも充分頷ける綺麗な形だった――フォークとナイフを器用に操って花のように綻んだ唇に運ぶ姿を内心を押し隠して笑みを浮かべて見ていた。
 そもそも、内心を取り繕うことなど日常茶飯事なので、何の苦労もなかった。
 ただ、田中先生もどうやら同じ気分らしくて、コーヒーを何杯もお代りに立っていたが、カフェインの摂り過ぎではないか?とも思ったが、田中先生は胃も丈夫そうだし大丈夫だろう。
 あんなにたくさんケーキを食べても香川教授は最初に出会った時――ドイツのベルリンから帰国した時に空港まで俺の恋人に「強制連行」された。何しろ、でっち上げた手術ミスの画像の術者の名前として勝手に名前を使ったのは他ならぬ俺だったから。
 怒髪天を突くくらいに怒られるかと覚悟して赴いたものの、以外にもあっさりと許して貰えたのは正直驚いたが。国内外での評判も最高ランクの外科医だし、その上国公立大学医学部教授最年少だ。だからプライドも当然高いのかと思っていたし、でっち上げの手術ミスの――と言っても、俺の恋人一人を騙すというか何とかして近付きたいと思ってのことで、医局内の人間に確かめればそんな手術ミスなどなかったと直ぐに分かるだろうし、健気な男心が暴走した結果だ――濡れ衣を着せられたこと「だけ」でも激怒してもおかしくない。俺も含めてだが、自分に自信がある分、プライドも高い人間が多いのがこの世界だった。
 それよりももっと上のステージに居る香川教授はもっと自尊心が高いと勝手に思い込んでいたのだが、会ってみると全然違った。
 それを良いコトに、まだわだかまりのある田中先生への嫌がらせに明らかに飛行機の中で付けられたキスマークを指摘してしまったが。
 それはそうと、その時から全く変わりのない、男性としては少し華奢な身体の――ちなみに俺の恋人の方がもっと華奢だ――どこに入るのだろうか?と真剣に考えてしまったし、良く太らないな……とも。
 ただ、手術には体力も精神力も使うし、その上俺が知っている中で最も記憶力も頭も切れるので、きっと脳で糖分を人並み以上に使っているのだろう、多分。
「美味しそうですね。今日のミッションですが」
 テーブルにつきながら報告をした。
 すると。

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