「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 政治家が無知なことをさらけ出した失言が有ると、マスメディアがこぞって取り上げる。まあ、政治とか社会問題が世間の人に「ありのまま」さらけ出されるのは個人的には良いコトだと思っている。
 ただ、俺が恋人まで巻き込んでドラマや映画に描かれたシナリオで――どうせ俳優さんは台本通りにお芝居しているだけなので好悪こうおの念はない――「官僚は悪」というある意味ステレオタイプの描き方に大衆が「そうだ!!」と思ってしまうことがマズいと思っている。
 まあ、実際のところウチの省でも「有事の際」に備えてのお金は備蓄されている。ただ、どこのご家庭でも(多分)しているだろう、家族が急に入院とかそういう事態に備えてのようなモノで「隠し金」とか裏金というほどの金額ではない。政府の予算は兆円を超える物は良くあるが、そんな一部のモノ好きが必死で探している「武田信玄とか徳川家の埋蔵金」のような「巨額」なモノではないと把握している。ただ、俺だって将来目指している――公言しているのは「言い続けたら実現する可能性が大きくなる」という論文に基づいているからだ――「省内初の独身の事務次官」になったら、俺の把握していない裏金の秘密が明かされるのかも知れないが。
 まあ、自分で言うのも何だが高学歴の上に絶対破綻はたんしない――正直、ウチの省がなくなる時は日本が国体をなくした時と同義だ――職場に勤めている。
 仕事上、ブラック企業の内偵も――そんな企業に真面目に勤めている人間が精神疾患を患ってしまうことも良くあるので――俺の担当ではないものの、ある程度は聞こえてくるコトもある。
 そういう「社畜」と自他ともに認める人間が、労働時間が20時間超えもあるにせよ羨む人間が居るのも知っている。だから、俺のような立場の人間を羨むあまりに憎悪を抱くのも分かるので、その「悪意」を汲んだドラマが生まれても仕方ないとは思ってはいる。ただ、ガス抜き程度なら良いものの、滴るような悪意に満ちた、ある意味洗脳に近いテレビドラマが作られることを危惧している。
「もう、大丈夫ですか?」
 既に見慣れた京都駅直近のホテルのエントランスにタクシーを停めて貰ってから美樹に聞いた。
「何とか。マサさんが落ち着き払っているからかな?何とか大丈夫。
 あんなので役に立った?前の時には、あの油ギッシュなおっさんと料亭の部屋で二人きりになったし、それなりの役に立ったのは知ってるけど?」
 美樹が少し心配そうに俺を見上げている。
 ただ。

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