「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 俺の座右の銘は「敵を知りおのれを知らば百戦危うからず」だ。
 ちなみに、俺の恋人の気持ちを何とかこちらに向けたいと必死だった頃は、最も有効な脅し方、もとい……アプローチ方法を必死に調べた。俺の恋人が不定愁訴外来という小さな自分の城、そしてそれを担保する大学病院そのものを最も大切にしているということまでは分かった。そして偶々たまたま病院の看板でもある香川教授の手術ミスの画像をでっち上げたのだが、俺も嫌いで絶対に近づきたくない場所の一つでもある救急救命室の田中先生に相談に行ったというのは思いっきり想定外だった。
 実は俺の恋人も血液アレルギーであることも事前に調べは付いていた。
 だから最も近づかない場所が野戦病院のようにもなる場合も多い――普通の大学付属病院なら搬送を断る権限が有るハズなのに、あの病院は救急隊員からの要請を「全て」受け入れるという奇特な所だということも調べ済みだった。
 俺には恐ろしすぎて近寄ることが出来ない――自分で喩えるのはいささか不本意だが、十字架とニンニクで結界を張られた教会に吸血鬼が近付けないように――場所に俺の恋人がよもや行くとは思いも寄らなかったのも事実だった。
 ただ、その結果田中先生や香川教授と知己ちきになったのは結果的に非常に良かったと今では思ってはいたが。
 だから井藤のことも美樹が知る限りのことを教えて貰わなければならない。
「うんとね、ま、お医者さんだからかもだけど――あ!でも気さくな先生とかも多いけどサ――他人を物凄く見下したように話すイヤなヤツだったな……。
 でも、暑いフリをしてボタンを外すと、嫌な感じの目で――なんていうんだろ?他の人間だって外すとさ、視線をチラチラこっちに送ってくるでしょ?あんな感じじゃない粘着質な感じだったかな……。いやぁぁぁな目つきでチラチラ、いやガン見かも……運転中に危ないなって感じだった。
 キャンディバーの話しをする前までは。
 それにフェラーリのせいかもだけど……物凄いスピードを出している感じなのにさ。
 そんなトコかな……ぁ?
 ちゃんとHIVの話しはしたんだけど、なんか浅いって思っちゃった。
 なんか他人事ひとごとのような感じというか……ま、お医者さんには患者なんて他人だろうけど……。でもそういうのって普通隠さない?
 なんか人間味がないというかさ、何と言うか……。オカシい人だって聞いてたけど、マサさんの言った通り、いや……」
 美樹はもどかしそうな感じだった。
 そして。

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