「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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「それがさ、熱くて甘いキャンディバーを舐めるの大好きって言っちゃったんだ……おっきくて硬いのなら大歓迎って……」
 運転手さんが「キャンディバー」という隠語(?)を知らないコトを祈るしかない。要は男のアレのことだが。
 そして、アレを嫌いな男が居ない――少なくとも俺は聞いたことがないし、ウチの省の内部情報がリークされた時などに大きな声で雑誌名が言えないような「お下品」なモノも買ってチェックした後に「シモ」系の記事までついつい読んでしまっている。その記事でも「彼女にして貰うと最高なテク」とかの紹介を図解付き、誘導するセリフ付きで書かれていた。
「それは甘くて大きなのを『夏』に味わうのが最も良いですよね。夏ではなくても、冬でも美味しいですからね……。そう言いたい気持ちは分かります。それに大好物ですよね、アレは……」
 美樹が赤い舌をチラリと出して唇を舐めた。
「うんうん!だよね……。嫌いな男性ひとって居ないもんね。経験からしても絶対そうだよ!!」
 俺は大きく頷いただけにする。運転手さんの耳を憚って。
「そしたらさ、そんな色ボケ猫!!何本のソレを咥えたんだ!?とかってイキナリ怒鳴り出してさ、青筋まで立てて怒ってんの。そして急ブレーキを思いっきり踏んでさ『そんなヤツがこの神聖な車に乗る価値がないっ!!とっとと降りろっ!!って怒鳴られた……。そして、ガチで下されたんだ、怖かったよぉ……」
 その「行為」を嫌いな男性が居るとは思えない。だとすれば、自分の持ち物に自信がないからなのかも知れない。
 井藤はもしかしてソコに劣等感コンプレックスを持っているのかもしない。そして、EDの治療薬を医師の処方でも手に入れることが出来るのに、海外からわざわざ個人輸入までしている実態もある。
 だったら「小さい」とかそういう種類の罵倒ばとうするのが効果的なような気がした。
 そして、井藤は初めてのハズで――あの性格だと、いくら女子大生の羨望の的の医学部生だったとはいえ、田中先生の医局の研修医の証言ではモテた感じは皆無だ――そういう人間が、しかも「あらゆる意味での憧れ」の香川教授に似ているという好条件だし、経験値もそれなりに高い男性にリードして貰うのはある意味男性のドリームのような気がする。
 据え膳食わねば……ということわざもあるし、古来から有り難がられていたのだろう。
 それを。

 
 
 

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