「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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「フェラーリで颯爽とグランビアとかさ、そういうホテルの車寄せに行って、ホテルマンに車のキーを投げつけるって恰好良いよね。ああいうトコは国産『なんか』は相手にしてくれないじゃん?そっから、部屋に上がって二人で……の予定だったんだよぉ。顔はあんなだけど、そんなの目を瞑っていたら良いだけじゃんね?
 で、暑いフリをして服をはだけて行ったんだ……。これって割と皆がコロっと引っかかる手なんだけど……な」
 確かに美樹レベルの容姿だったら引っかかる男などゴマンと居るだろう。香川教授に「似せた」顔もそうだったが、美樹の若さとか、そして何より思春期の女性のような胸にも下心がムクムクと動く人間は多数居るだろう。田中先生から恋人が聞いた話だと、シンガポールのラッフルズホテルのバーに「そういう行為」をした後に入った香川教授は着衣の乱れなどは直していたものの、甘く香る余韻で店中の人間の目を釘付けにしたらしいし、グレイスとかいうバーに一人で行けばお酒を奢ってくれる人が陸陸と現れるらしい、ま、当然かもしれないが。
 それには及ばないものの、美樹のボタンの外した後のワイシャツの隙間から覗く「そういう姿」も見る人が見れば本能の赴くままに従ってしまいそうな感じに違いない。
 美樹も動いたせいでシャツの露出部分が変わってはいるものの(原型はこうだっただろうな……)と容易に想像出来る。
「それでね……。二人っきりになれるとこに行きたいな!もっとお話も聞きたいし」ってとっておきの甘い声で誘ったんだ。そしたら滋賀県の大津に良いホテルが有るってことで、そっちに向かったんだけど……」
 幾ら激怒しやすいとはいえ井藤が――といっても後先のことを考えているとも思えなかった――高速道路から下ろすという暴挙に出たのは何故だろうと思ってしまう。
 好奇心も有ったが、井藤という患者のデータを取るためにも必要だった。
 俺の優秀な恋人も――本来ならば患者さんと面談してみなければ正式な診断など出来ないが、このレアケースなだけに判断材料は多い方が良いだろう。
「本来の目的のために頑張ったということですね」
 タクシーの運転手さんはこんなケースも滅多にないのだろう。興味津々といった感じで聞いているので迂闊うかつなことは口に出来ない。美樹が「二人っきりになりたい」と言い出した時にはどうしようかと思ったが、「人には洩らしたくない話しだけ」という線で行くことに決めた。
 すると。

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