「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 何だか度胸の据わった感じのするタクシー運転手が三台目に居た。前身は反社会勢力ですか?と思わせる強面(こわもてな感じの人だ。
「あのう、名神で車から無理やり下ろされた人が居ます。警察も向かっていますが、やはり現場に駆け付けたいと思って……ダメですか?」
 先ほどの人たちはニベもないといった感じで首を思いっきり縦に振って「他の車に聞いてみ?」との返事だったので、ダメ元で聞いてみた。外見がそんな人でも、根性が据わっていなかったり意気地のない人もいるのは知っていたので。
「お!!兄ちゃんそれは大変だな?場所はどこやん?」
 俺も恋人の仕事を重視して京都に居を移したが、大阪弁――と言っても地域でかなり違うらしい――とか京都弁に「ケンカを売っているのか?」と思ったことが有ったがどうやらただの方言で、相手に全く悪気がないことも分かってきた。まあ、京都人に言わせると俺の東京弁というか標準語がカンに障るという人が多い。田中先生にはワザと標準語のアクセントを使ってイヤそうな顔をさせるのが楽しみの一つだ。
「場所はここです」
 美樹から知らされたICの場所から大まかな地図をグーグルマップで表示して運転手に渡した。運転手さんの中には運転には強いが機械には……という人も多いのでこれで分かるかと背筋に冷たい汗が滴っているのを、表情には出さない。
「ああ、この辺やね。とりあえず向かってみるわ。警察も人命が掛かっているさかい、パトカーもたくさんいるだろうしな」
 良い運転手に巡り合ったなと思いながら、急発進の圧力に必死に耐えた。
「ああ、あっこやな、パトカーが多数ぎょうさん集まっているわ」
 確かに赤色灯が多数集まっている。その車に守られるような感じで美樹の無事な姿も確認出来て心の底から安堵した。
「つまり、車内で口喧嘩になってそれでそのまま降ろされたと……。暴力は振るわれていませんね?」
 警官が美樹に聞いている。暴力ならば傷害罪などで警察沙汰になる。そうやって大事おおごとにしても良かったのだが、俺が精査した「院内規則」では旧態依然というか、性善説というか医師とかの職員が警察沙汰になっても特に罰則規定などはなかった。
 田中先生はそういう規則を即座に改めさせると言っていた。香川教授には直接頼まないだろうが、彼だって病院内に人脈は作っているだろうから、そちらを使うのだろう。
 だったら。
 


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