「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 110番して警官に行って貰おう。その方が交通規制とかも鳴れているだろうし、島田の名前を出せば大丈夫だろう。
 島田は大阪府警に所属だが俺の場合と同じように遊撃隊というか割とイレギュラーな仕事を任されている警察庁の一員だ。
 一般の人に誤解もあるようだが、警察の中で一番偉い人は警視総監だと思われているような気がする。「総監」という仰々しい名前のせいもあるのだろうが。まあ、東京都は住民の数も多いし、首都でもあるので首都警察が最も注目されることは仕方ないだろう。
 ただ、警視総監は警視庁の中で最も偉い人というだけで――それでも充分凄いポジションだが――警察の組織を管轄する警察庁が各都道府県の警察を束ねている。
 だからその警察庁長官の方が偉いのは言うまでもない。その組織の一員なので、一般の警察官からは雲の上の人として扱われるのが島田だった。
「あ、もしもし、知人が高速道路に置いてきぼりにされたとのことで私に相談の電話が入りました。
 私も向かいますが、パトカーを出して頂けるのでしょうか?」
 詳しい地名を告げると、こちらの名前や住所・電話番号などを聞かれた後に一分ほど間が有って「直ぐに向かいます」と頼もしく返事をくれたのは助かったが。
 住所とか――ちなみに俺は恋人の家に住民票を移していた――電話番号・名前を聞かれたのはイタズラ目的ではないと判断するためだろう。
 統合失調症などで、有りもしない妄想から110番通報する人間が最近多くなっていると島田に聞いていたし。
 病院のタクシー乗り場――当然ながら容態が落ち着いた患者さんでも歩行に不自由だとか、退院の際の大荷物を持て余して普段はタクシーを利用しないような人でもお客になることも有って常にタクシーが待機しているのは知っていた。
 ちなみに、個人的には絶対に近付きたくない救急救命室に搬送された患者さんは当然救急車専用の場所に停めるが、家族の急を聞いて駆け付けた人とかが利用するために夜中でもタクシーが停まっているのは知っていた。
 一番前のタクシーの窓をコンコンとノックした。高速道路に停めるだけの度胸が有るかはこの場合重要だったが、最前列から順番に聞いて行くしかない。
「何でそんなところに行くのか?バカか」と言いたげなタクシーの運転手さんに断られた後に――こちらも委細を話している暇などなかった――美樹の身に俺が直視出来ないようなことでも起こったら取り返しがつかない緊急事態だったので。
 すると。

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