「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 俺も含めてだが、官僚というのは己の失敗談を吹聴はしない。いや、それは誰だってと思われるかも知れないが、矜持プライドが異様に高いせいだろうか隠蔽いんぺいする率は一般の企業よりも高いという数値も出ている。そういう統計を取るのも省庁の役割なので――といってもどこまでその数字を把握しているかには個人差が大きいが――各省庁ごとのHPに「情報公開」というタテマエで誰でも閲覧出来るようにはなっている。
 ただし、余計なコトとか隠したいコトなども有るので広告やアナウンスなどはマスメディアを使ってはしていない。ただ、その問題に興味を持った人がグーグルとかの検索エンジンを使って見に来るだけに留まっている。
 そして、藤宮の美人度とか有能さを全く鼻にかけない様子などからウチの省内部でも何人かが愛の告白とか「付き合ってください」とか言っていた人間は多かった模様だが、ことごとく玉砕していると聞いている。彼女は仕事以外――というか俺の上司命令は唯々諾々と従ってくれるが、厚労省の実質的トップで、かつ内閣総理大臣に嫌われたらそこで終了してしまうし、総辞職かつ解散総選挙などになったあかつきには議員の職まで奪いかねないというあやふやな身の上の、いわば「お神輿みこし的存在」でもある厚労大臣の命令すら聞かないという徹底した彼女の仕事ぶりは非常に気に入っているが――至って淡泊かつ無頓着なので大好きな女性が多い、自分語りなど聞いたこともない。
 だから、何人の人間が冷たくお断りされたか具体的には知らないものの、厚労省内部の飲み会で愚痴っている男性を多数知っている。もちろん、一次会で彼女が帰った後に酒の勢いを借りてのことだったのだろうが。
「氷の藤宮とか言われていますから、公私問わずに振った人間の数は物凄いですよ。そういう果敢なある意味暴挙だと分かっていても突撃をする強者つわものの死屍累々さが日を追うごとに数を増しています。
 だから、敢えて忠告するとすれば『仕事が出来る男だ』ということを自分で語るのではなくて態度で示してみたら如何でしょう?そうすれば可能性がないこともないような気がします、そこはかとなくですけど……」
 VIP扱いだとも分からない香川教授に手を出した厚労省の元ナンバー2の「事件」が有った後、田中先生がどうしても外せない仕事が京都である場合のみ香川教授の身に何も起こらないように念のためにボディガードをしてもらっている。教授はああいう性格なので自らのことを誇らしく語ったりはしないが、研究会の時には斬新な手術法についての発表などを度々行ってくれている。
 その時には。

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