「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 流石お抹茶の街だけあって、決して有名店とかではないそこいらの喫茶店なのに、抹茶の鮮やかなグリーンが氷全体にかかっている。しかも大豆餡だいずあんは京都からほど近い丹波の豆でも使っているのだろうか、大粒かつ濃い茶色に艶々とした光を放っている。そして白玉も文字通り真珠のような鈍い光で濃いグリーンを際立たせている。
 俺はケーキなどの洋菓子は苦手だが、お祖母ちゃん子だったので和菓子は食べられる。白玉などは昔お祖母ちゃんが作ってくれて、それに黄粉きなこと砂糖を混ぜたモノなど大好物だ。
 余りの美しさに見とれていると、電話が着信を告げた。どうでも良い電話なら当然無視して後で折り返しをしようと思いつつ画面を見ると、金融庁の知り合いだったので渋々出た。
 これが弱みの一つや二つ握っている相手なら折り返すという選択肢もアリだが、あいにくそんなモノを握らせるような人間ではない。
 財務省と金融庁は省庁改革で色々と入れ替わったが、もともとはエリート中のエリートの「大蔵省」が前身なだけに優秀かつスキがない人間が揃っている。まあ「こいつなら、隙を見せそうだ」というリストは作成済みだったが。女関係とかギャンブルとか「極秘で知り得た」株式売買とかの――財務省とか金融庁に居てもそういうカジノが大好きという人間は多い――どの人間が上記のことをやらかしそうなのかもキチンと書いてあったが、今掛かって来ている電話の主は「未だ」そういうボロは出していない。
 かき氷は、文字通り氷を削っているので表面積が広い。だからその分大気に触れればコンビニで売っているような水割りなどを作るアイスのようになかなか溶けないというわけでは全くないので、見ているうちにも綺麗に盛り付けられたグリーンのピラミッドが徐々に崩れていく。
『もしもし、依頼の件分かったぞ……みずほ銀行にリストは手に入れた。ただ、この預金額だと他の銀行にも分散しているような感触だ。ああ、それにお尋ねの件の「ノダ」という人間へ三千万の送金記録が残っている。
 この写しは必要か?』
 溶けて行くかき氷を未練たらしく見てはいたものの、頭はすっかりスマホの方へと切り替わっていた。
「出来れば頭取の印鑑が有る原本が欲しいのですが」
 電話の向こうでこれ見よがし的な溜め息をつかれた。
 しかし。

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