「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 何だか母校の次に勝手知ったるみたいな病院になってしまっていた。
 それに独立行政法人になったとはいえ、旧態依然とした大学病院の中では俺の母校とかと異なって、アメリカでの輝かしい実績を積んだとはいえ、母校の大学病院に在籍期間が一切ない――俺の母校などでは、医局員として籍を置いたままアメリカの医科大学に研修に行ったりはする。ただ、あちらの病院は実力主義なので、シビアに「実力も才能もない」と判断されると医療行為に参加させてもらえないらしいが。
 そういう場合でも「お客様」待遇で一応は置いてもらえて、何をするのかと言うと実験用のマウスの世話係りらしい。
 マウスとかウサギの世話なんて日本では小学校の時くらいしかしないような児戯に等しいが、それでも「アメリカの名門大学帰り」という経歴「だけ」が欲しいので、マウスの世話をしたり、そのマウスが不要になると「培ったメス捌きが錆びないように」とその哀れなマウスの解剖などをしているらしい。
 T大とか私立のK応大学医学部卒などで、アメリカ名門大学歴「だけ」をひけらかす医師の場合は、具体的に何をしていたのかとかをキチンとヒアリングするのは俺達には「常識」になっている。
 俺の上司の世代では、アメリカの名門大学歴に恐れ入ってしまって、省の委員会の中で重要なポジションを与えたものの、その言っている内容がおかしいとのクレームが他の医師から多数有って、よくよく調べてみるとアメリカで千例の臨床経験の千全てが「人間」ではなくて「マウス」だったという文字通り「ビックマウス」な医師だっていたのは笑えない冗談だった。
 そういう口だけで誤魔化そうとする医師が居ないとか――脳外科の問題は戸田教授の身から出たサビといった感じで病院の体質のせいではない――病院内改革が「医師の手」でも熱心になされている点とかも評価に値する良い病院だ。
 そもそもアメリカでしか実績のない人間をイキナリ教授職というのも斉藤病院長の英断と言えなくもない。
 ウチの母校でも香川教授を招聘しようという声が有ったようだが、その条件は准教授というごくごく当たり前というか相場通りの待遇だった。
 まあ、香川教授の場合は、母校の破格の「教授職」という好条件に惹かれて凱旋帰国を果たしたわけでないことを後々になって知ったが。
 田中先生が在籍している限り准教授でも、あるいは相場以下のポジションでも帰国しているような気がする。
 そういう意味では。

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