「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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「分かったよ。ウソを混ぜて色々話していると、ツジツマって言ったっけ?それが合わなくなるってことじゃんね?だから、余計な話はするなってこと?」
 美樹にしては鋭い指摘に深く頷いた。
 何だかヘレン・ケラーに「水」という概念を教えることに成功したサリバン先生の(だったような気がするが気のせいかもしれない)喜びというのはこんな感じだったのではないか?と思ってしまう。
「そうです。その通りです。下手なコトを言うと、相手はなまじ知識が有るので……ボロを出してしまうかもしれませんので」
 井藤は外科志望で、心臓外科が本命、そして脳外科には興味がないという話は田中先生から聞いていた。
 だからHIVとかにはそれほど知識がなさそうだが、念には念を入れておいた方が良い。
「そうだね。オレもさ、つまみ食いの積りでメチャタイプだったんだけど、お金全然持ってない人と付き合ったことがあってさ。
 あるパーティで知り合ったんだけど、インテリアデザイナーをしてるって言ってたし、車はBMW、マンションもタワマンの上層階だったからイイかな!最高かもなとか思ったワケ。
 それにベッドの上でもテクニシャンだったしさ。
 でもね、食事が終わって『食後酒を飲みに行こう』とホテルの最上階のバーとかに一緒したら『食べてきたばっかりだから、おつまみは何も要らない』とか言うんだよ!フルーツの盛り合わせとか普通は頼むと思うんだけど。
 オレがさ、気まぐれでメロンとか食べるかもしれないじゃん。だったらフルーツがたくさん載った盛り合わせは必要じゃん。
 なんか違くね?と思って、よくよく聞いてみたんだよ。そしたらBMWは中古で、それも20万円で買ったとかで」
 話がまた脱線しているが、美樹の饒舌さを俺が受け止めることで井藤の前ではそんなに話さないようにしろ!と後で釘を刺すために取りあえずは聞いておこうと心に決めた。
 しかし、中古車が安いというのは知ってはいたが、20万円は安すぎるのではないだろうか?
「そのBMWって本物なのですか?」
 車の偽物は聞いたことがないが、ロレックスなどの高級腕時計の偽物が主に中国から輸入されていることは税関の人間から聞いていた。原価は2千円くらいで、それを100万とかで売りさばいているらしい。
「一応本物。でも、事故った車を二台つなぎ合わせて、無理やり一台にしたんだって、さ」
 は?と思った。

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