「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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「よっしゃぁ!!フェラーリと雅さんおススメの新しい恋人紹介のために頑張るから!!」
 井藤の――それでも、麻薬取締官に「勤務中に」隠し撮りして貰っていた写真の中で一番映りのお良いヤツを選んでおいたが、被写体が被写体のせいで全く美しくないのは仕方がない。
 美樹がやっと普段のガッツを取り戻したようだったので一安心だったが。しかし、ここまで来るのは時間的にも財布的にも遠かった。
 俺の普段は何枚も猫をかぶって「本性」を隠しているので、知らない人間の方が多い中で、田中先生には割とさらけ出しているが、そして彼も同じような思考法を持っているので言いやすい上に一を言うと十を察してくれるので組むには最適な人間だった。
 しかし、その田中先生でさえ「陰謀を企むだけで、後は他の人間にさせるのって楽ですよね」と嫌味交じりに言われた記憶があった。あれは、嫌々連れ出された俺の恋人と香川教授がとても乗り気だったケーキバイキングでの一コマだったが。
 ああいう食べ放題の場合、自分で好みのケーキを取りに席を外す機会が多いので――田中先生も俺が来ると聞いて、香川教授のボディ――いやメンタルかもしれない――ガードの積りでついて来た感じだった。
 俺が香川教授を攻撃などする積りはないと田中先生も分かっていると思うのだが、それでも心配だったのだろうが。というか、「たかが」医局の慰安旅行とウチの省の旅行の宿と日程が重なって「不測の事態を招きかねない」件について――ウチの省が医師達「にも」大嫌いだと思われていることは知っているし、過去の不祥事などを思うとそれも仕方ないことだと思っている――ウチの旅行の日にちをずらすような「陰謀」は俺には朝飯前にも関わらず、その代償にウチの省が熱烈にラブコールを送っても「謝絶」の二文字しか貰えなかった香川教授が「森技官の要請を受けて参りました」と言ってくれただけで俺の勤務先の株は――元々高値を付けていたが――大急騰した。それに香川教授の為人ひととなりも大変好ましい。
 二人がケーキを取るために嬉しそうに席を離れていた時に、お互いコーヒーしか飲んでいない二人きりになった時に何の話からそうなったかまでは忘れたものの、そう田中先生がポソっと言った言葉だったが。
 「陰謀」を企むためには下準備も必要だし、動員する人間の性格とか能力を見極めたりそのレベルに合わせて事前に色々とプランを練っておかなければならない。
 そういう、

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