「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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「あっそうか。言われてみれば確かにそうだよね。ほら、ドラマなんかではイケメンが――と言ってもオレには負けるけど――お医者さんの役をしていているじゃん?それも主役とかで。だから病院にはお医者さんがたくさん居るのは当たり前だけど、考えてみればナースとか事務職とかも居るよね。
 ま、薄給のサラリーマンには用はないけど。雅さんみたいなイケメンならお金とか関係なく親しくなりたいけどなぁ」
 見る男性によっては魅惑的な流し目を送ってくる。
 マスコミの影響力は大きいのでドラマを観た一般視聴者が「その団体」にネガティブな印象を持つことは良くある。そして、それでなくとも思いっきりネガティブな印象を持たれている厚労省なので、医療ドラマが放映されると厚労省の件も言及される恐れがあるので、俺の恋人にまで協力して貰って全部チェックはしている。もちろん部下にもさせているが、手が回りきれないのが実情だったので。
 ドラマではイケメン医師しか主役として出て来ることが多いのも事実で、香川教授や田中先生はそのまま出演しても良いレベルだ。尤も香川教授に演技が出来るとは到底思えないが。逆に田中先生はノリノリで迫真の演技をこなすような気がする。
 美樹も香川教授に似た容姿なので、ドラマ出演も可能かもしれないが、知的な雰囲気を醸し出すのは不可能――演技指導に物凄く時間と手間をかけても結局は失敗に終わりそうな感じがする――っぽい。
 美容整形をした人間は芸能界で生きていけないとか雑誌で読んだ覚えも有るが、バレていなかったら美樹程度の容姿でイケメン役はゲット出来るかも知れないが、ホストとか頭の悪いヒモとかしか需要がないような気がする。テレビ業界の内情は知らないので何とも言えないが。そんなことを「真剣」に考えているフリをして、美樹の流し目をスルーした。
「それはともかく、井藤の写真は手配します。職員用の通用門の近くで声を掛けて下さい。そして、お酒にでも誘って」
 美樹が「ストップ!」と言ったので言葉を止めた。
「オレはさ、バーとかに誘い込むのは自信あるんだけど……。その井藤とか言う人ってメンヘラなんだよね?メンヘラって精神的に不安定とかそういうヤツだろ?泣かれたり縋られたりするのは慣れてっから良いけど、いきなり怒り出すとかあるじゃん?怒らせる積りとか全然ないし、楽しくお喋りしていても爆発的な感じで劇オコになっちゃって『帰る!!』とか言って、お金も払わずに出て行ったりするだろ?
 そういう時にはオレが財布を出すの?」
 美樹は不満そうに唇をとがらせている。
 仕方がない。

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