「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 自身や親しい人間の病気のことを気にするのはある意味当然だし、医師ではなくともその病気のことは良く知っていることは有りがちだ。
 まあ、厚労省が声を掛けている教授クラスや特に功績を持っている医師の――もちろん、T大関係者が9割だが、俺が交渉(?)の結果香川教授を呼べたのは直属の上司を始めとして物凄く覚えが良くなったのも事実だ――最近の悩み事として良く聞くのは、インターネットが普及したことによって、特定の病気に「だけ」異様に詳しくなり、科学的根拠エビデンスの乏しい治療法を望むと言って来たり、日本では認可していない薬を処方せよなどと言って来たりする浅はかな専門知識のよろいを纏ったクレーマーめいた患者さんの存在だった。
 それは置いておいて、美樹にも病気について知っていることが有るというのはある意味朗報だった。
「井藤という研修医に声を掛けるのは出来ますよね?」
 美樹がお金のために色々な職業を――と言っても履歴書に堂々と書けるモノばかりではないのも確かだった――経てきたことも知っている。ことさら聞き出したわけでなくて、美樹が勝手にお喋りしているのに付き合っただけだが。
「それは出来ると思うよ。ホストクラブ時代に太い客を捕まえようとキャッチをしたことが有るし、ゲイ・バーでも二丁目界隈に来た『お上りさん』――で合っているかな?そういう田舎いなかモノの人間に声を掛けて店に連れて行って、じゃんじゃん呑ませるんだ。そしたらその客の使ったお金の20%が後でオレにバックされるから。
 だからその点は任せて欲しいな。雅さん、オレって有能でしょ。だから、バック……」
 新しいパトロン候補を紹介することが「バック」=ご褒美なのだろう。
「それはキチンと果たしますので安心して下さい。
 その後、医師だと自己紹介するでしょう。病院の職員用の門の近くで待機して貰う積りでいますが、職員全てが医師でないのは分かりますよね?」
 美樹は少し考えている感じで目を泳がせている。
 美樹に当意即妙の答えを要求する方が間違っているので、助け舟を出すことにした。
「大学病院には医師も当然居ますが、それ以上に多いのが看護師ですね。それに検査や機械を操作する技師も居ます。それに事務局では医療行為ではなくて、普通の会社のように書類仕事をする人とか銀行の窓口のような感じで患者さんのお金を受け取ったり、それを計算する人も居ます。
 そういう人が一斉に出てくるので、医師とは限りません」
 すると。

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