「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 美樹がここまで使えない――いや、井藤が容姿とか、馬子にも衣装ということわざを地で行っている美樹のエル〇スの上下一揃いで、怜悧で端整な雰囲気は醸し出してはいるが、香川教授は凛として咲き誇る大輪の花の佇まいを彷彿ほうふつとさせる雰囲気だった。ただ、その大輪の薔薇の風情は彼の内面から煌めいているような感じで、目鼻立ちがことさら華やかどいう感じではない。
 ただ、その精神性は自分の手技に対する矜持きょうじとか、田中先生に愛されているという心の照りとかそういうモノで構成されて朝露に濡れた紅色の薔薇に似た雰囲気を醸し出している。
 美樹の場合は内面よりも外見を磨く努力をしてきた上に、ゲイ・バーなどで皆とどんちゃん騒ぎをするとか、二人きりで口説かれている時には――そういう場面では知性とか知識はほぼ必要ない――それなりの対応が出来るが、井藤が香川教授の手技だけでなく知性まで狂気の粘着をしているのだったら美樹はあっさり振られるだろう。
 といっても、井藤の為人ひととなりも、ある程度は分かっているものの、どんな話題を好むかなどは全く分からない。病院一の情報通としても有名な流石の田中先生でもそこまでは調べられなかった。
 というより、脳外科に所属している人間でも井藤を遠巻きにしている状態だったので、誰も知らないから無理もないだろうが。
「有り難う!雅さん太っ腹!!
 それはそうと、次の思いっきり甘えさせてくれる恋人紹介してね」
 美樹の言葉の語尾にハートマークが散っているような気がした。こういう人の財布を当てにして生きてきたのだろうが、そういう生き方すら香川教授とは真逆なので頭を抱えたくなってしまう。
 「思いっきり甘えさせて」ではなくて「思いっきり散財させてくれる」の間違いだろうと思ったがもちろん、口には出さない。
「いえいえ、どう致しまして。次は美容室に行きましょう」
 香川教授の好みそうなシンプルな青色と白のストライプのネクタイを締めて淡い色のスーツという身なりに――まあ、俺は行ったことがないのであくまで想像の域を出ないが――茶色に染めた長めの髪となるとホストみたいな感じがする。
 田中先生から聞いた話では、井藤は人嫌いだしプライドも高そうなので――往々にしてそういう人間は偏見のかたまりな上に職業差別もするのを知っていた――水商売チックな人間を接触させても徒労に終わる可能性が高い。
 しかも。

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