「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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「ハンカチとかの小物も全部だよ。だってバアちゃんが言ってたもん。それに今彼いまカレも。
 エルメスのバーキンを持っているのに、服がGUとかシマムラだと見ていてなんだか悲しくなるとか何とか……。ブランド物で揃えるなら細部まできっちりしないとダメじゃんね……」
 何が悲しくてーーいや過去にも手伝って貰ったことはあるにせよ、そちらの手間代というか仕事の代金は香川教授が俺の言い値で支払っているのでチャラにならなければおかしいーー恋人でもない人間にそんなことまでしなければならないのだろうと思うとエルメスに置いて有ったハズの食器で頭を殴りたい気分になってしまう。もちろん傷害罪に抵触するのでしないが。
 あ、頭はマズいかもしれない。顔面はーーしかも美樹は顔を人工的に変えているらしくて、天然のモノよりも手間もお金も時間もかかりそうだーー絶対にダメだろうが、頭部もサラサラの髪にしないと井藤が引っかからないだろう。頭部を包帯でぐるぐる巻きにしていたのでは上手くいくモノですら不可能になりそうだ。
 だったら、目立たない腹部とかが良いかも……といささ剣呑けんのんな考えをしながらも笑みを浮かべる。俺にとってこの程度は朝飯前だ。思っていることと表情がまるっきり反対のことをなどは。
 いや、腹部もダメだという結論になった。美樹が首尾よく井藤をベットに連れ込んで「行為」に雪崩れ込んだ場合にーーまあ、井藤が服を全部脱がせるかどうかなど知らないし、知りたくもないがーー青タンが出来ていたら興ざめだろうから。
「分かりました。では早速参りましょうか……」
 いくらお金に困っていないとはいえ、美樹相手に泣く子も黙るハイブランドのスーツやネクタイそしてハンカチなども買わないといけないのかと思うと、何だか俺の前世でも悪かったのではないか?という普段なら鼻で笑うオカルトめいた考えに浸ってしまう。
「じゃ、行くよ!わーテンション爆上げ~~!!」
 目を¥マークにした感じの美樹はなんと俺に腕を絡ませてきた。
「ちょっと……それは止めて下さい。恋人は平日のこの時間はまだ仕事中ですが、この街にもたくさん知人がいます。万が一その人に目撃されると後々困ります」
 恋人の街の知り合いにーーちなみに由緒のある住宅街な上に京都という土地は昔から続く家が東京に比べて段違いに多いーー気に入られようと盆栽とか庭木の剪定のお手伝いをした家も多数有る。
 そんな人がこの中心地にたまたま買い物に来ていたということも十分あり得る。
 必死で腕を振り払おうとした。
 すると。

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