「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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「へー、真面目なリーマンかぁ。それもコスプレみたいで面白そうかも。
 しかも、着ているものからして、大企業に勤務しているとか、なんかそれっぽかった。
 エルメスで統一してたじゃん、前にちらっと見たけど。
 何にも考えてなさそうなんだけど、元々の頭が良いのかな。オレはバカだからさぁ、そういうのって憧れるっていうか。良いよ、エリートのコスプレってコトで。髪の毛も真面目っていうか、真っ当な社会人ぽくして……。
 ま、前の時には美容院に行くお金がなかっただけで、さ。
 自分で染めるっていう手は有るけど、オレ不器用で……なんか染めると余計に貧乏たらしいというか汚らしい感じになっちゃって。
 なんかナンバー1ホストのパシリを永遠にしている思いっきり売れないホストみたいになってしまって。
 あれなら染めない方がマシのレベルだから。
 今はさ、芸能人も来ているとかいう――まあ、会ったこととかはないけど……。そういうサロンで染めているんだけど、京都で一番評判の良いサロン教えてよ」
 そんな、こ洒落じゃれた店なんて知らないし、美樹が指名のつかないホストのようとか――というか、二丁目の店ならばそれなりには需要がある華やかな容姿だ、たとえ作り物であったとしても――そんなこともどうだって良い。部下がこんな間抜けなことを言って来たら「検索すれば良いでしょう」と冷然と言ってしまうところだが、ここで美樹のご機嫌を損ねたら大変なことになる。
 今までも公衆の面前で「HIV」を連呼されているのも耐えたというのに。
「……予約しておきます。そのツヤツヤな髪の毛は切っても大丈夫なのですよね?パ……恋人はそういうのを気にしない方ですか?」
 井藤の好みが香川教授ならば、水色の清潔感が引き立つような几帳面に切り揃えた髪形が良いに越したことはない。
 ただ――後釜あとがま候補は居るとはいえ、今のパトロンは相当良い暮らしを保障しているようだから、それなりの束縛も有るかも知れない。
 俺の恋人は、あくまで対等の立場だし勝手に髪の毛も切りに行っている。大学病院の医師らしく知的かつ無難な髪形をキープしているが――まあ、そういう行動はしなさそうな人だが――何を血迷ったか奇天烈キテレツな髪形にしたと仮定しても「オレの勝手だろ?」とキレられるのがオチだ。
「そして、その東京の山の手言葉は止めて下さいね。ターゲットは生粋の京都育ちなので大変、排他的ですから」
 山の手言葉というのは言い過ぎだが、美樹に気持ち良く仕事をしてもらうためにはこの程度のお世辞は言っておいた方が良い。
 ただ。

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