「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 田中先生の認識でも俺は「陰謀が大好き」というカテゴリーの中に入っているだろう。確かに企てることはそう嫌いではないが、陰謀なんてプランの時点では、ほぼ無限大に考え付くことが出来るし、先ほど電話してどっと疲れた美樹を投入するという計画もその一環だったが、成功する確率は多分田中先生が漠然と考えているよりも低いだろう。試みる価値が有るように思えても実際は上手く行かない方が圧倒的に多い。経験則で言うと20%程度だろう。徒労に終わること前提で色々な企みを同時進行したり――今回のケースなどはその好例だ――適材適所な人員を配置したりするだけでも手間がかかる。
 ちなみに俺の恋人を獲得するミッションの時は母校の大学病院の放射線科の教授の弱みを握って心臓外科の教授の手術ミスの画像を入手した。その弱みを握るために――心臓外科の教授の手術ミスは厚労省に報告は上がっていた――色々聞き込んだり調査したりして二週間はかかっている。
 そして、執刀医の名前を替えて貰うとか色々工夫を凝らしていた。流石に放射線科の教授も難色を示したので、エンジニアを巻き込んで改ざんをした。
 そういう陰の努力は惜しんでいない。その甲斐が有ってルックスも性格もド・ストライクの恋人をゲット出来たのはむしろレアケースだろう。
 確かにそういう陰謀を巡らすのは嫌いではないが、出来ればしたくないというのが本音だった。同時進行で行うのも骨が折れるし。
「うわぁ、雅さん久しぶり!!HIVの陽性反応が出たにしては元気そうだね!!」
 新幹線の改札口近くで待ち合わせていると、大きな声で美樹が声を掛けてきた。その周囲の無辜むこな人たちが一斉に美樹と俺を見比べては、俺から後ずさっていく。
 空気感染はしない病気ではあるものの、やはりまだまだ偏見の有る病気だし、その反応は仕方ないといえばその通りなのだが。
 ただ、公衆の面前、しかも屈託のない大声で叫ぶのは内心(バカか?バカだろ??絶対にバカだ!!)と思ってしまう。
「エッチ・アイ・ブイって何?」「え?マジ?ヤベえよな。ガチで逃げろ。エイズが伝染うつる!!!」「え?エイズなん、ヤベっ!!!」とか一応声は潜めてはいるようだが丸聞こえだった。
――ウチの省の地道な啓蒙活動けいもうかつどうはどうやら税金の無駄使いのようだった。そのことも併せてがっくりと肩を落としてしまう。
「何々?やっぱり具合悪いんじゃん?ただ、発病はしていないんだろ?だったら強く生きてたらいいじゃん。
 人生太く短くだよ!!」
 それはお前の人生のモットーだろう?しかも咄嗟にでっち上げたHIV陽性というウソを本気にしているのならその慰め方は却って逆効果だろう。
 すると。

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