「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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 美樹の――美容整形の技術の賜物だが、そんなことはどうでも良い――香川教授に割と似ている顔は良いとして身長差もシークレットブーツで補えばいい話だ。
 以前、ナンバー2追い落とし作戦の時みたいに暗がりでは絶対にバレないだろうし。そもそも普通のカップルのようなデートなら身長差が露見するリスクは当然有る。美樹の方が5センチほど低かったはずなので、靴を脱ぐ場面になると敏い人間なら気づくだろう。
 身体も幾分華奢ではあるな……と冷静に分析していた。香川教授は男性としてはやや細身だが、体力仕事でもある外科医なだけにしなやかに纏った筋肉もついているのを、あくまでも服の上から知っていた。
 そういえば、見たくもない――今思い出しても吐きそうになる――香川教授の手技をモニタールームで見てしまったが、手術着姿というのは身体の線がはっきりと見えたのが不幸中の幸いだった。
 「そういう嗜好の人間」が集まる場所で、かつ照明が暗い店……。そこで美樹に会せるかとも思ったが、井藤はそういう店にすら行っていないようだった。
 だったら偶然を装って接触させる方が良い。
 それに、井藤の執着心がラッキーなことに美樹にシフトしたとして、そして井藤が今、田中先生が警戒レベルをマックスに上げている状況になったとしても、職場や住所を変えるのが難しい香川教授と異なって美樹も身元を明かさずに「そういう関係」になって潮時だと俺が判断した時には東京に帰れば良いだけの話だし、その上幸いなことに美樹も住所を転々とするのは慣れているし、今のパトロンも金回りが良いようなので、タワーマンションの最上階でもなんでも移動可能だろう。
「とにかく京都に来て頂けませんか?
 どうやって接触するのが最も自然かとか考えておきますので。
 後はベッドの上で籠絡して下さったら――そういうのも得意でしたよね……?それに貴方に堕ちないオトコはいません」
 俺のことは思いっきり棚に上げて既定事項のように言った。美樹に対してはそれが効果的だ。自尊心をくすぐるのが最も良い。香川教授と異なって――というか、何故香川教授が手技の才能だけでなく己の容姿にも実績に基づいた矜持を持たないのかが理解出来なかったというのが本音だが――美しさ「だけ」に高すぎるほどのプライドの持ち主だ。
『雅さんがそんなに焦るって、珍しいね。良いよ。どうせ暇だし……。
 それにさ、報酬は……そうだなぁ、体力はありそうだけど、持久力とかテクニックに劣りそうだよね。その若いチェリー君。
 口直しにさ……』
 思わせぶりに言葉を切った美樹の次の言葉が何となく分かって嫌な予感がした。
 すると。

 

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