「気分は下剋上」 森技官の優雅な受難

こうやまみか

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「病院長とか真殿教授関係ではなさそうですね……」
 俺も公私混同は分かってはいたが、切ない片想いをする男の行動力で必死にアプローチした。でっち上げの手術ミス画像まで用意して。
 そして精神科の真殿教授は恋人の天敵とも言うべき人なので、不定愁訴外来に籠っている分には干渉などはして来ないが、便宜上は精神科助手という肩書があるので、科のミーティングに呼ばれては刺々しい言葉を投げかけられているのは知っていた。
 ただ、議論と言う名の口ゲンカの仕方のコツもレクチャー済みな上に、元々の性格も負けず嫌いで生徒としては物凄く優秀だった。
 だから俺と知り合う前よりも真殿教授との口ゲンカ、いや議論も百戦百勝の記録を誇っているのは二人だけの秘密だ。
「ああ、田中先生が相談にいらして、脳外科の研修医の井藤という人間が香川教授に異様な執着を見せているらしい。
 田中先生は精神科に不得意なのでオレに相談してくれたんだが、パーソナリティ障害で間違いはないな。と言っても知っての通り本人と直接話していないんで、確たる診断は出来ないが……」
 確かにそんな状況だったら、ピザのLサイズを二枚でも三枚でも食べたくなるだろう。
「具体的には香川教授の何に執着しているのですか?卓越した手技ですか、それともご本人の端整なお顔とかスタイルの良さですか?」
 スミレ色のため息を零しながら、固定電話でピザの注文をした恋人は華奢な肩を竦めた。
「どちらにも……という感じだな。
 香川教授は、病院長命令で色々な雑誌の取材を受けているだろう?その切抜きをファイルはファイルでも革で出来た高価なものに保存しているようだし、田中先生のことを物凄い目つきで睨みつけてきたようで。
 ああ、横恋慕の必須条件として、井藤が同類かどうかが重要だろう?異性愛者はいかに教授があの大輪の花のような美しさでも別に何にも思わないだろう――というか一瞬『イケメンだ』としか認識しないし、次の瞬間は忘れているのが普通で――田中先生も他人がそういう嗜好を持っているかはピンとくる人だけれども、慎重を期したいので、お前にも確かめて欲しいとさ」
 いわばセカンド・オピニオンといったところか。
 田中先生は実力に裏打ちされた矜持の持ち主だし、曰く因縁の有る俺に頼ってくるのはよほどの危機感を抱いているに違いないが。

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