元暗殺者の神様だけど、なんか質問ある?
天使リンクル
まず俺は、バッハの砦に向かう事にした。前に連れられた山道を思い出しつつ、木の根や岩の突き出た、登りの悪路を歩く。この身体はやはり調子が良い。かなり歩かなければならない道程だが、半分ほど来ても息が切れていなかった。
「バッハに会う気い?」
「ああ」
リンクルはふよふよと浮いたまま、俺の後をついてくる。どこに行くとも言わないで歩き出した俺に、黙ってついてきていたリンクルだが、そろそろ行き先を察したようだ。
「どうしてあの騎士に会いたいのお?」
リンクルは不思議そうに俺の顔を覗き込む。無遠慮なやつだ。顔、近過ぎるし。
「あいつは完全無欠のいいやつだからだ。道に迷ったふりをして取り入り、まずはあいつから情報を仕入れる。そこから先は、それから考える」
「普通だねえ。つまんないのお」
「そうだな。俺もそう思うよ」
つまらないと言われようが、俺の行動指針に変わりは無い。でかい仕事ほど、こういう地味でつまらん作業が必要になるものだ。インターネットがあればそこそこ詳細かつ信頼性の高い情報が簡単に手に入るのだが……ここでは足で稼ぐしか無いだろう。
「でもねえ、グレッド」
「なんだ?」
「これ、リンクルは危険だと思うよお」
「あ? そんなワケないだろ。バッハに会いに行くだけだ。どこに危険などがある?」
またからかっているのかと思ったが、リンクルはわりと真剣だ。どうもさっきから右斜め後ろ、つまり4時の方向をちらちらと気にしているようだが、この発言はそれに関係がありそうだ。
「はあー、グレッド、もう忘れちゃったのお?」
リンクルは大仰にため息を吐き出した。
「何を?」
俺は幾分ムッとして聞き返す。が、それを聞いたところでもう遅い。間抜けな事に、俺はそれを完全に失念していた。
「何って? ほらあ、あれだよお」
リンクルが4時の方向を指差した。
「ああん……っ!?」
リンクルに素直に従うのが癪に障るのでのんびりと振り返ったが、俺はその事を速攻で後悔した。
「グルルルルル……」
そこには、大口を開け涎を垂らしてこちらを睨む凶暴なる異生体、ロックバイターが六本足で立っていた。距離、およそ10メートル。やつの瞬発力を鑑みると、とてもじゃないが逃げられない距離だ。ここまで接近されるまで気付かなかった自分が不甲斐ない。今まで培ってきた暗殺者としての自負は、今この瞬間、粉々に打ち砕かれた。
「今度はバッハ、助けに来てくれないよお」
リンクルがにっこりと微笑んだ。俺の希望は摘み取られた。
「何っ? はっ、そうか!」
確かバッハは、俺の放った審判の轟雷によって偵察に出て、この場面に鉢合わせたと言っていた。あれが無ければ、砦から出る理由が無くなる。つまり、バッハが俺の窮地に現れる可能性はほぼゼロだ。リンクルはそれを指摘している。遅えよ。もっと早く言えよ、それ。
「ちいっ!」
俺はまたしてもそこらの枝を拾う羽目に陥った。くああああ、ムカつくぜ! てことは、最初にすべきは武器の調達ってわけかよ!
「きゃはははは。グレッドったら、焦ってる焦ってるう」
「うっせえこのアホ! 何が面白いんだお前は! お前、本当に俺の下僕なのかよ!?」
つい。八つ当たりしたのだが。
「本当だよお。あたし、天使リンクルは、神使グレイトフル・デッドの従順なる僕。死ねと命じられれば、躊躇うことなくこの命を投げ出すのお」
「え?」
ふわりと着地すると俺の前で跪き、敬虔に傅くリンクルがそこにいた。俺は完全に虚を突かれ、何も言う事が出来なくなる。
「さあ、命じて。その名の下に。天使リンクルに命じて欲しい。敵を討て、と」
リンクルが面を上げた。いつも気の抜けていたリンクルの顔が、凛々しい戦士のそれになっていた。
「バッハに会う気い?」
「ああ」
リンクルはふよふよと浮いたまま、俺の後をついてくる。どこに行くとも言わないで歩き出した俺に、黙ってついてきていたリンクルだが、そろそろ行き先を察したようだ。
「どうしてあの騎士に会いたいのお?」
リンクルは不思議そうに俺の顔を覗き込む。無遠慮なやつだ。顔、近過ぎるし。
「あいつは完全無欠のいいやつだからだ。道に迷ったふりをして取り入り、まずはあいつから情報を仕入れる。そこから先は、それから考える」
「普通だねえ。つまんないのお」
「そうだな。俺もそう思うよ」
つまらないと言われようが、俺の行動指針に変わりは無い。でかい仕事ほど、こういう地味でつまらん作業が必要になるものだ。インターネットがあればそこそこ詳細かつ信頼性の高い情報が簡単に手に入るのだが……ここでは足で稼ぐしか無いだろう。
「でもねえ、グレッド」
「なんだ?」
「これ、リンクルは危険だと思うよお」
「あ? そんなワケないだろ。バッハに会いに行くだけだ。どこに危険などがある?」
またからかっているのかと思ったが、リンクルはわりと真剣だ。どうもさっきから右斜め後ろ、つまり4時の方向をちらちらと気にしているようだが、この発言はそれに関係がありそうだ。
「はあー、グレッド、もう忘れちゃったのお?」
リンクルは大仰にため息を吐き出した。
「何を?」
俺は幾分ムッとして聞き返す。が、それを聞いたところでもう遅い。間抜けな事に、俺はそれを完全に失念していた。
「何って? ほらあ、あれだよお」
リンクルが4時の方向を指差した。
「ああん……っ!?」
リンクルに素直に従うのが癪に障るのでのんびりと振り返ったが、俺はその事を速攻で後悔した。
「グルルルルル……」
そこには、大口を開け涎を垂らしてこちらを睨む凶暴なる異生体、ロックバイターが六本足で立っていた。距離、およそ10メートル。やつの瞬発力を鑑みると、とてもじゃないが逃げられない距離だ。ここまで接近されるまで気付かなかった自分が不甲斐ない。今まで培ってきた暗殺者としての自負は、今この瞬間、粉々に打ち砕かれた。
「今度はバッハ、助けに来てくれないよお」
リンクルがにっこりと微笑んだ。俺の希望は摘み取られた。
「何っ? はっ、そうか!」
確かバッハは、俺の放った審判の轟雷によって偵察に出て、この場面に鉢合わせたと言っていた。あれが無ければ、砦から出る理由が無くなる。つまり、バッハが俺の窮地に現れる可能性はほぼゼロだ。リンクルはそれを指摘している。遅えよ。もっと早く言えよ、それ。
「ちいっ!」
俺はまたしてもそこらの枝を拾う羽目に陥った。くああああ、ムカつくぜ! てことは、最初にすべきは武器の調達ってわけかよ!
「きゃはははは。グレッドったら、焦ってる焦ってるう」
「うっせえこのアホ! 何が面白いんだお前は! お前、本当に俺の下僕なのかよ!?」
つい。八つ当たりしたのだが。
「本当だよお。あたし、天使リンクルは、神使グレイトフル・デッドの従順なる僕。死ねと命じられれば、躊躇うことなくこの命を投げ出すのお」
「え?」
ふわりと着地すると俺の前で跪き、敬虔に傅くリンクルがそこにいた。俺は完全に虚を突かれ、何も言う事が出来なくなる。
「さあ、命じて。その名の下に。天使リンクルに命じて欲しい。敵を討て、と」
リンクルが面を上げた。いつも気の抜けていたリンクルの顔が、凛々しい戦士のそれになっていた。
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