元暗殺者の神様だけど、なんか質問ある?

仁野久洋

Sweet strategy

 砦に攻め寄せた騎士たちが、俺を無遠慮に観察しながら戦略会議を始めた。俺などまるで脅威にならないのだろう。のんびりとしたものだ。

 こっちは、今にも爆発しそうなんだが、な。

「なんだ、あいつは?」
「ギルハグラン市民だろう。見られたが、どうする?」
「逃げられれば、街で騒ぎ立てるだろう。それでは奇襲の効果は半減だ。始末しておくに越したことはない」
「待て待て。こちらには、神聖騎士ゲパルド様があるのだから、敵の兵力は無力化される。となれば、あえて騒がせ、市街をパニックに陥れるという手もある。そうなれば、直接手を下さずとも大勢死ぬのではないか?」
「なるほど。それは良い考えだ。ゲパルド様は、どう思われる?」

 速やかに意見を取りまとめた一人の騎士が、ゲパルドへ向かって手を胸に腰を折る。意向の伺いを立てられるゲパルドは、やはり敵の騎士らの指揮官、あるいは官位爵位などの位が高いのだろう。

「……殺せ。こやつ、俺がここに来る直前、バッハと決闘、少なくとも手合わせをしようとしていたようだ。つまりはそれほどの腕を持つ剣士であるやも知れん。油断はするな」

 ゲパルドは俺に一瞥くれると、踵を返してそう命じた。

「ははっ」

 それを受け、数人の騎士が俺の前に進み出て剣を抜く。どいつも立派な剣を持っている。きらきらと輝く甲冑からしても、皆高位の騎士なのだろうと推測出来る。

「あー、あっちはヤル気だねえー。どうするう、グレッド? 戦うう? 逃げるう? それとも、あたしが戦っちゃうう?」

 リンクルはうきうきと目を輝かせ、俺の肩をつついて来る。こいつは戦いが好きらしいと思うと、ますます天使という肩書が疑わしくなった。
 
「……いらねえ」
「えー? 何があ?」
「お前の助けなんかいらねえっつったんだ。だから、俺が戦う。自分でな」
「マジでえ? あのねえ、グレッド。知らないと思うから教えてあげるけどお、こっちの世界の騎士を舐めるとアブナイんだよおお。みいんな、それなりには強いんだからあ」

 リンクルらしくない不安そうな表情が浮かんでいる。心配しているみたいだが、誰を、何を心配しているのかは分からない。普通に考えれば俺になるんだろうが、そうは言い切れない含みがある。言い方にも、顔にも。

「だから何だ? 俺もそれなりに強いつもりだ」

 とにかく頭にきている。この手でこいつらの一人でも斬らないことには腹の虫が治まらん。俺の袖をちょこんと摘むリンクルの手を振り払い、俺は剣を突き出した。

「お前らはプラムローマの騎士だよな? 騎士であれば、当然矜持はあるだろう。俺はお前ら全員に、一対一の決闘を申し込む。さあ、誇りある者から前に出ろっ!」

 さすがに未知の敵に対して数的不利な戦いは挑めない。地の利も無ければ兵器の性能差も無いのだから、こうして挑発するのが俺に採れる最善手だ。こちらの世界の騎士たちが、俺の世界の騎士たちと同様の価値観を持っていれば通るはず。

 が、俺の予想は甘かった。ここは、やはり異世界だったのだ。

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