元暗殺者の神様だけど、なんか質問ある?

仁野久洋

審判の轟雷

「と、言うわけでえ。あたしはリンクル。よろしくねえ」

 明るい。なんだこの陽気な少女は。背中に翼があるので、もしかしたら天使というやつなのかも知れない。見た目は中学生ってとこだが、無駄に露出の多い服だ。いやホント、露出されても全く嬉しくないやつだ。

「……おい。いきなりよろしくされてもだな、俺は困惑しているぞ」

 あれから俺は、急に眩しい光に包まれ、気が付いたらどことも知れない草原に立っていた。そして今、目の前にはこいつがいる。

 空は澄み渡り、心地良い風が吹いている。きれいな空気だ。一体どこなんだ、ここは?

「え? ああ、そうよねえ。あたしみたいな美少女に微笑まれて、よろしくなんて言われたら、そうりゃあどぎまぎしちゃうもんねえ。あーごめんごめえん。あたし、そこまで気が回らなかったあ。もー、シャイなお・に・い・ちゃ・ん」
「違う。誰がお兄ちゃんだ。何もかも違うぞお前」

 イラッとくるやつだ。女は別に嫌いではないが、これは受け付けないヤツだ。つまりガキ。やはり、俺には大人の女が良く似合う。

「えー? お兄ちゃんって呼ばれると男は喜ぶものだって、神様から聞いてたのにい」
「あのじじいめ……どっから仕入れた情報だ……」

 どこを見てやがるんだあのじじい。ネットがどうのと言っていたから、そっちだろうか? 神様もネットサーフィンするのだろうか?

「おかしいなあ。まあいいやあ。じゃあ、なんて呼んだらいいのかなあ?」
「近いなお前。顔近過ぎ」

 ぐいぐい来るな、こいつ。俺のパーソナルスペースを軽く侵害して来やがる。

「そうだな……グレイトフル・デッド。俺の事はそう呼べ」

 やはりこれだな。本名で呼ばれるのは慣れてない。

「長いなあ。じゃあグレッドって呼ぶねえ」
「……ま、いい」

 誰だか知らんが、どうせこの場限りだろう。適当に流しておこう。

「さあ、グレッド。それじゃあ早速、人間たちを導きに行くよおー」
「あ? なんの事だ? おい、手を引っ張るな。と言うか、誰なんだお前は?」
「リンクルだよお。さっき教えたのにもう忘れたのお? 頭悪い?」
「殺すぞお前。聞いているのは名前じゃない。お前は俺の何なのか、という事を聞いたんだ」
「ひやあああ。殺すだなんて、酷いのお。あたし、グレッドのサポートするように神様に言われた天使だよお。この世界には詳しいから、何でも聞いてねえ」

 リンクルは鼻息荒く、その貧しい胸をどんと叩いた。自信満々のようだ。

「サポート? なぜだ? 俺は、天空っぽい所から、下界をコントロールすればいいのでは無いのか?」

 確か、じじいは俺に地上の民を救うよう依頼していたと思う。俺はてっきりじじいが横にいて、その力を借りる形になるものだと考えていたのだが。

「ぶっぶー。違いますう。グレッドはねえ、この地上でえ、人の姿を借りてねえ、為すべきことを成すのですうー」
「聞いていないが」
「言ってないもんねえ」

 なるほどな。そもそもあのじじいの頼み、俺は承知した覚えも無い。どうやら強制イベントだったようだ。信じられん。この俺が、契約書一つも交わさず、他人の依頼に動かされるとは。まあ、依頼主は人では無いが。

「もー、グレッドったらしょうがない人だよお。いーい? 説明するから、よおく聞いててねえ?」
「……ああ」

 こいつ、やけに上から話してくるな。気に触るが、もうしばらく我慢してやろう。状況さえ飲み込めれば、消してしまっても構うまい。

「神様がねえ、グレッドにお願いしたのはあ、この地上の人たちを、正しく導いて欲しいって事なのお。正しく導く。つまりねえ、みんなが安心して楽しく暮らせるう、平和な世界にして欲しい。分かるう?」
「……ああ」

 俺は素直に頷いた。こいつ、後で絶対殺す。

「その為にい、グレッドにはアバター……この世界の人間の肉体を与えたのお。グレッドはこれからあ、いろおんな人たちと出会ってえ、時には戦ったり、説得したりとかしてえ、世界をいい方向に導くんだよお。そうそう、肉体はねえ、20歳くらいのお、健康ぴかぴかなのを用意してくれたよお」

 リンクルは人差し指を立て、俺の顔に近付けた。なんという得意げな顔だ。子どもが得たばかりの知識を大人にひけらかす時と同じ顔。ドヤ顔ってやつだ。

 しかしなるほど。確かに俺の体は若々しく、かなり調子がいいようだ。これで顔もまずまず良ければ文句は無いが、鏡が無いので確認出来ない。

「その為の力はあ、神様が貸与してくれてるから安心してねえ。あ、でもでも、すっごく強力な力だからあ、下手に使うと一瞬でこの世界は滅んじゃうから気をつけてえ」
「ははははは。それは凄いな」

 なんだそれは核兵器か? 俺が世界を滅ぼす力を持っているだって? 暗殺者だぞ、俺は。これがもし本当ならば、あのじじいは完全に耄碌している事になる。

「あー、信じてないでしょお? いいもん、それじゃあ、"審判の轟雷"って、小さい声で言ってみてえ? いーい? 本当に、ちっちゃあーい声で、だよお?」
「ははははは。分かった分かった」

 リンクルは頬をぷくりと膨らまし、ぷんぷんと怒りながらそう言った。信じてもらえないと怒るその姿がやはりまるで子どもなので、俺ははいはいと手を振り、そして、試した。

「審判の轟雷」

 ぼそっと呟いてみた直後、晴れ渡った空から閃光が煌めき、何本もの雷の柱が遠くの山の頂に降り注いだ。

 雷の雨は瞬く間に山を跡形無く粉砕し、何秒後かにそれによって発した轟音が俺の鼓膜を揺らす。同時に腹に重苦しい振動を伝えた。

「あ。あーあー……、声、ちょっと大き過ぎちゃったねえー……。あの山に住んでいた動物たち、みんな死んじゃっただろうなあー……ごめんねえー」

 リンクルがやれやれと肩をすぼめ、手を組んだ。

「……マジか……」

 あまりの威力に、さすがの俺も青褪めた。






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