元暗殺者の神様だけど、なんか質問ある?

仁野久洋

グレイトフル・デッド(感謝する死人)

 グレイトフル・デッド。それが俺のコードネームだ。依頼はこの名で舞い込んで来る。そして、この名で俺が動く時。それは。

 誰かが、死ぬ時だ――。


 
 つまりは、俺は殺し屋だ。それも、マフィアだヤクザだなんてチンケなもんはターゲットにしていない、世界的に名の知れた暗殺者だ。国家や世界情勢に多大な影響力を持つ者を標的とする事が多い、超一流の殺し屋だ。

 そうそう、俺のコードネームを「偉大なる死」なんて訳すのは間違いだ。これは聖書の一部「トビト記」に登場する死人を指す。

 旅人トビトが手篤く葬った路傍の死体。その死人はトビトに大いに感謝し、旅の先々で幸運をもたらしてくれるようになる。

 その死人が呼ばれるようになったのだ。
 感謝する死人グレイトフル・デッドと――。

 

「ふっ。いよいよ、俺もお終い、か」

 そんな俺の暗殺者稼業も、どうやら今回の仕事で終了だ。

「ふははは。そうだな、グレイトフル・デッドよ。お前は技術の進歩に疎かったのだ。それが、お前の敗因だよ」

 ごり、と俺の額に押し当てられたのは、SIGだろう。最後は9mm拳銃ごときに殺られるのか。地味な最期だ。不満だぜ。

「お前が潜入しているのは分かっていた。狙撃ポイントも、警戒するフリをして人員を配置した。相当なプロでなければ気付かないであろうポイントだけを残してな。そして、そこには光学迷彩を纏った兵を伏せておいた。お前でさえも察知不能な光学迷彩が、すでに実用化されていた事を知らずにいたのは怠惰だな。そうか。真の敗因は怠惰だ。はあっはっはっはっは」

 なんて愉快そうに笑うのか。対して、その分俺は不愉快だ。その勝ち誇ったツラにせめて1発叩き込んで、ご立派なスーツを真っ赤に染めてやりたいが……くそ。もう、俺の体は動かねえ。やたら寒いし眠くてだるい。これは血の流し過ぎ、だ。失血死まで、あと3分ってところだろう。もう俺を撃つのは弾の無駄だが……ちっ。やっぱ死ぬしかねえようだ。

「さて。わざわざ私の前に連行させたのは、この手でとどめを刺す為なのだよ。これまで散々に私を苦しめてきてくれたお前だからな。これは気持ちだ。受け取っとけ!」

 俺を見下ろしてニヤつくスーツ野郎のSIGがブローバックして、マズルが炎と共に弾丸を吐き出した。

 You are dead.

 テレビの電源をオフしたように意識が飛ぶ瞬間、どこかからそんな宣告が聞こえた気がした。

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