元暗殺者の神様だけど、なんか質問ある?

仁野久洋

死して屍、神となる

 どこだろう、ここは? 暗い。暑くも寒くもなければ、地に足が着いている感覚すらない。手足がちゃんと付いてるのか、動かそうにも、それすら曖昧で分からない。体は空間にどこまでも広がっているようで、その実、いつもの俺の形をしているようにも思える。光も音も何も無い。ただ、意識だけがはっきりとしている。そんな世界に、俺はいた。

 妙なもんだと思ったが、気分はそんなに悪くない。それどころか、いい気持ちだ。そうだな。例えるならば、どっさりと出た宿題を初日に全て片付けた夏休み二日目、ってところか。バイトで貯めたお金もたんまりあるし、気の良い友達もたくさんいれば、付き合い始めたばかりの彼女だってそばにいる。海でも山でもどこにでも、好きなだけ遊びに行けて、何でも出来る状態だ。心ウキウキ、無敵の気分ってやつだよな。

 ま、そんなのは当たり前になっているイケメンリッチリア充にはちっちゃい例えかも知れないが、自分を縛るものは何も無い、圧倒的な開放感って事。それが、今の俺を満たしている。ちと暗殺者っぽくないけどな。

 だが、そんな上機嫌を叩き潰す、ハンマーのような言葉が俺の心を直接打った。

「ようこそ、御代良真みよりょうまよ。ここは死後の世界。わしはお主を歓迎する」

 はあ? 誰だよ、おめえ? 本名で呼ばれるなんて、いつぶりだよ。

 そう返答したつもりが、言葉は出ない。口を動かしているつもりなのに、その口がどこにあるのかが、ぼんやりとしか意識出来ないのだから当然か。さらに、声の主を探して見ようとしても、目も無い感じだ。うーん、これはなかなか違和感ある。

「わしは、神。おぬしらには、そう呼ばれておる存在じゃ。わし自身は、そんな大層な者だとは思っておらぬがな」

 謙虚だな。さすがは神様。

「そう言うお主は尊大よの。神に対してその態度。これが夢だとでも思うておるのだろう。じゃが、そうではないぞ。そうではない」

 ふーん、そうかい? 確かに、こりゃあ夢ん中ってのが一番近い感じだけどな。二回も違うと言われると、ますます疑いたくなるのが人ってもんさ。

「難儀なものよな、人とは」

 そうかもな。俺も常々そう思うよ。

「御代良真。西暦1999年生まれの、享年35歳。未熟にして世を去ったものだと思うたが、その歳にして、すでになかなかの精神性を構築しておる男のようじゃ。なるほど、これならば"選ばれる"のも支持出来る」

 選ばれる? 何だか知らねえが、そりゃどうも。教師に褒められる事なんざ無かったが、まさか神様にお褒めの言葉をいただけるとはね。惜しむらくは、出来れば生前に欲しかった、かな。

「生前、か」

 なんだよ?

「いや、惜しむ必要は無いのに、と思うてな」

 ん? なんで?

「なぜなら、お主が"生きている"と信じて主に生活していた日本という国。そして、世界。それらの土台となっておる、地球」

 うん?

「それらは、皆、偽物じゃ。自然も、人も、命も。全ては偽物。当然、お主すらも偽物なのじゃよ」

 は? 何言っちゃってんの? 意味不明なんだけど。

「じゃが、一つだけ、確かな本物がそこにはある。わしはそれを守る為に存在する」

 はあ? ちょ、だから意味不明なんだよ。話を進めてんじゃねえよ。

「お主のいた世界の文明は発達し、科学の進歩と共に、インターネットを始めとする高度情報化社会へと進化した」

 ダメだ。このジジイ? かな? 俺の話を聞いてねえ。

「そして、とうとう世界の"真実"が、ネットを通じ、知られ始めておる。それ即ち」

 す、即ち? ヤベえ、これ気になる!

「その世界が、全て"仮想現実"である、と言うことじゃ」

 あ? は? 

 俺は耳を疑った。つもりだったが、生憎疑う耳が俺には無かった。

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